投稿日:2021年11月05日
更新日:2023年03月17日
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法人の場合は赤字で所得がマイナスであっても決算、申告は必ず必要です。しかし個人の場合は赤字であれば必ずしも確定申告をする必要はありません。
確定申告は事務作業量も多く処理も複雑なこともあり、必要がなければできればやりたくないのではないでしょうか。
しかし赤字であっても確定申告をするとメリットが享受できるケースがあります。また、申告をしておかないと困るケースもあります。この記事では赤字で確定申告・決算申告した場合のメリット、赤字で申告をしない「無申告」状態であることにより受けるデメリットをご紹介します。
この内容を把握してご自身の状況と照らし合わせ、赤字でも確定申告をするかどうか検討するための参考にしてみましょう。
目次
まずは赤字で確定申告をするメリットについて、大きく以下3点をご紹介します。
所得はその性格により10種類に区分されており、損益通算とはその各種所得で生じた損失の中で一定のものについては他の所得から控除できる制度を言います。
例えば事業所得と給与所得がある人の場合、事業所得で損失が生じたら給与所得から差し引くことができます。事業所得が▲100万円、給与所得が+300万円で年末調整をしているケースだと、確定申告をしなければ特に所得税は変わりませんが、申告をすると損益通算によりその人の所得は300-100=+200万円となり、減った所得分の所得税が還付されます。
ただし損益通算ができる対象は事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得のみです(この中でも損益通算の対象とならないケースも一部ありますので注意が必要です→国税庁タックスアンサーNo.2250参照)。
青色申告であることが前提になりますが、年間で損失が出た場合には損失を翌年以降3年間繰越ができます(白色申告の場合は一部の損失に限られるなど制限があります)。つまり来年以降3年間、所得が出たらこの損失を控除して所得、税金を減らすことができます。このため今年赤字でも翌年以降所得が出る見込みが高い場合には確定申告をしておくとメリットがあります。
こちらも青色申告であることが前提となりますが、前年は所得が出て税金を支払ったものの今年は損失となった場合に、今年の赤字を前年の黒字と相殺して前年払った税金を還付してもらうことができます。そのためには確定申告書に加えて「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を添付する必要があります。
前述したように純損失は3年間繰越ができるので、今後所得が発生すると見込まれる場合には繰り越す選択もありますが、今後しばらく所得が発生しないと見込まれる場合には控除する機会がありません。このような場合には繰戻還付を選択するとメリットを享受できます。
ただし繰戻還付の請求をすると税務調査の対象になることもありますので念頭に置いておきましょう。
この他にも、「雑損失の繰越控除」など確定申告することにより損失を繰り越すことができる制度もあります。災害など特別な事情で損失が出た場合には優遇措置がないか確認してみると良いでしょう。
確定申告の必要書類とは?個人事業主・会社員ごとにわかりやすく解説!このように赤字で損失が出た場合に、条件が合えば確定申告をすることにより税額を減らすことができるメリットがあります。
一方で税額は変わらないものの、申告をしないことによりデメリットが生じるリスクもあります。ここでは税金とは関係なく、無申告であることのデメリットをご紹介します。
確定申告書は個人事業主にとっては所得の証明になります。無申告だと所得を証明する書類がありません。
住宅ローンの審査、融資の審査などの際に確定申告書が求められることが多くあります。無申告で確定申告書がないと、ローンを組むことや借入が困難になります。
審査の際には複数年分の書類を求められることが多いです。事業だけでなく私生活でも、このような審査が必要になるか今後の予定を考えながら、確定申告をしておくべきか検討しましょう。
一定所得以下の人は国民健康保険料の軽減措置があります。しかし軽減措置の申請には所得金額が確定し証明されていることが必要です。無申告だと証明ができないので軽減措置が受けられません。
課税証明書は個人の所得、課税額などを証明する書類です。課税証明書は児童手当の申請や保育園の入園申請など、所得を証明しなければならない場面で必要になります。無申告だと所得額が確定せず、課税証明書が発行されず所得を証明できません。
生活面でも重要な影響がでますので、課税証明書が必要となる状況があるかどうかをよく考慮しておきましょう。
実際に確定申告をするにあたっては、前述した「赤字で確定申告をするメリット」で述べたように青色申告をするとメリットが大きくなります。ご自身の状況に合わせて、青色申告をするかどうかを検討してみて下さい。
青色申告は赤字の場合のメリットだけでなく、所得が出てきた時には青色申告控除を始めとしたさらなるメリットがあります。現在赤字でも、今後所得が出ると見込まれる場合には早めに青色申告で申告をしておくと良いでしょう。
このように赤字でも確定申告をするとメリットがあるケース、確定申告をしないとデメリットが生じるケースがあります。手間がかかる確定申告ですが、申告をしておくべきかどうかよく検討すると良いでしょう。
損失申告(赤字の申告)をするには通常の申告書に加えて別途第四表の作成が必要になります。また、確定申告をする場合には青色申告が有利ですが、青色申告をする場合には複式簿記により記帳をし、決算書として損益計算書だけでなく貸借対照表も作成しなければなりません。
申告書の作成に不安がある方、青色申告に係る事務作業を削減したい方などは専門家である税理士へ相談してみましょう。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 税務処理、確定申告 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。