投稿日:2022年09月26日
更新日:2023年05月23日
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「記帳代行」「経理代行」とよく聞きますが、何をどこまでやってもらえるのでしょうか。また、両者は似たような言葉ですが、何が違うのでしょうか。
このコラムでは、「記帳代行」と「経理代行」が、それぞれ何を依頼できるのか、メリットとデメリット、そして両者の違いをご紹介します。導入を検討する場合の参考にしてください。
記帳代行とは、会計の記帳を外部の方に代行してもらうことです。依頼先としては、会計事務所だけでなく、記帳代行専門の会社もあります。記帳代行で依頼できることは、主に以下のとおりです。
・会計ソフトへの入力
通帳や請求書、領収書などの取引の元資料を依頼者が提供し、それをもとにして仕訳を入力します。
・帳簿作成
会計ソフトに入力した結果から、試算表、元帳、現金出納帳などの会計帳簿を提供します。
経理代行とは、記帳を含めた経理全般を外部の方に代行してもらうことです。経理代行で依頼できることは、主に以下のとおりです。
・記帳業務
上記でご紹介した記帳業務は、経理代行に含まれます。
・領収書や請求書などの書類整理
ファイリングなどの書類整理をおこないます。
・請求業務
請求書の発行をおこないます。
・入金・消込業務
入金を確認し、売掛金を消込します。未入金部分を洗い出し、場合によっては確認・督促作業まで依頼することもできます。
・振込業務
銀行振込の業務をおこないます。
・給与計算
毎月の給与計算をおこないます。場合によっては、社会保険の届出など、人事に関連する業務を依頼することもあります。
経理代行を依頼できる先は、会計事務所だけでなく、経理代行専門の会社もありますし、給与関係であれば社会保険労務士になるでしょう。業務を分けての依頼よりも、可能な部分は一連の業務をまとめて依頼する方が効率的でしょう。
経理代行は、記帳を含む経理業務全般を外部に依頼することです。一方で記帳代行は「記帳業務」を外部に依頼します。記帳代行は経理代行の一部と言えます。
外部に依頼する場合は、自社の業務フローを明確にした上で、どの業務を依頼すれば効率的かを検討しましょう。記帳部分だけか、その他の業務も依頼するか、自社の目的に合わせて代行を依頼する範囲を決めるとよいでしょう。
例えば、記帳する専門的能力のある人材が足りない場合には記帳代行だけを依頼する、間接部門の人材自体が不足している場合は書類整理や請求、入金消込などの業務も丸ごと依頼する、などといったことが考えられます。
このように記帳代行と経理代行では、外部に依頼する範囲が異なります。経理代行の方が依頼する業務範囲が広いため、費用も多くかかるでしょう。料金体系は、依頼先や業務内容によりさまざまです。
正しい帳簿の付け方とは!記帳のポイントやよくある失敗例についてもわかりやすく解説!記帳代行と経理代行のメリット、デメリットをそれぞれ比較しながらご紹介します。
メリットは主に以下のとおりです。
(1)人件費の削減、残った自社の人員をコア業務に専念できる
【記帳代行のメリット】
記帳するには、簿記や税務の専門的知識が必要になります。そうした人材を雇用するにはコストがかかりますし、教育する場合には時間がかかるところです。
中小企業の場合は、人材を確保するよりも記帳代行の方が低価格で済むケースが多く、コスト削減につながります。
【経理代行のメリット】
中小企業では、経理などの間接部門に人材を確保しにくいことがあります。雇用を維持する資金的な余裕がなく、また、募集しても人材が集まりにくいこともあるからです。
経理業務は記帳だけでなく、書類整理や請求、入金消込など、さまざまな業務があります。経理代行を依頼すれば、間接部門の人件費をまるごと削減でき、人材を確保する必要性がなくなります。
そして残った自社の人員は、営業などの売上に直結するコア業務に専念させることが可能です。
(2)正確性を担保できる
【記帳代行のメリット】
記帳業務は、簿記や税務の専門的知識が必要になります。記帳代行を依頼すれば、外部の方が正確に業務を遂行してもらえるため、記帳業務の正確性を担保できます。
【経理代行のメリット】
記帳だけでなく、請求や入金消込、振込業務など、経理全般の業務は、お金がからむ大切な業務です。外部に依頼すれば、正確におこなってもらえます。
(3)内部で公開したくない情報を外部に依頼できる
【記帳代行のメリット】
帳簿には、会社の取引がすべて記録されます。役員報酬や、交際費、社員の人件費、さらには会社の損益まで、中小企業ではあまり自社の社員に公開したくない部分もあるでしょう。
記帳代行を依頼すれば、内部に知られることがありません。
【経理代行のメリット】
例えば振込業務では、支払内容が明確になってしまいます。中小企業では組織も小さく、また、同族での経営のケースも多く、社員に取引内容を知られたくない場合もあるでしょう。また、給与計算業務は社員の給与がすべてわかってしまうので、社長やその家族がおこなっているケースも多いのではないでしょうか。
知られたくない部分に関する業務を外部に代行すれば、内部に知られることなく、また社長の業務負担を減らせます。
(4)退職リスクに備えられる
記帳代行、経理代行、ともにこのメリットがあります。
中小企業では退職者が出た場合にすぐに後任を採用できないことがあります。採用できたとしても、マニュアルが作成されておらず、引き継ぎがうまくいかないケースもよくあるところです。
特に振込業務など、業務を長期間止める訳にはいかないものが、経理業務のなかには多くあります。業務を外部に依頼していれば、退職があっても業務を止めることなく遂行できるでしょう。経理代行のほうが、このメリットの享受は大きいといえます。
(5)業務の効率化につながる
【記帳代行のメリット】
記帳業務を外部に依頼すれば、その業務を自社内からなくせるので、自社内での業務フローを簡潔にできます。それにより、自社内での業務効率化につながります。
【経理代行のメリット】
記帳代行と同様に、外部に依頼した部分の業務をなくせるため、自社内の業務フローをすっきりと簡潔にできます。経理代行は記帳代行よりも外部に依頼する業務が多くなるため、自社内の業務はさらに効率化できるでしょう。
デメリットは主に以下のとおりです。
(1)自社内にノウハウが残らない、自社の社員が育たない
記帳代行、経理代行に共通していえることですが、外部に代行を依頼した業務に関して、自社内にノウハウが残りにくくなります。そしてその業務を理解する自社の社員が、育ちにくくなります。
例えば記帳代行を依頼した場合、自社で会計ソフトの操作をできる人がいなくなる、自社内だけで試算表を見ることができない、といったことが考えられます。このため、誰か業務がわかる人を残しておく、試算表の出力など大切な業務だけは自社でもできるようにしておく、などの対策をするとよいでしょう。
また、コアな業務は自社内でおこない、書類整理などの単純作業のみを代行してもらうという選択も可能です。
また、自社内での業務内容、業務フローを理解した上で、業者へ依頼することが望ましいでしょう。そうしないと本当に自社業務の効率化につながっているかどうか、費用を削減できているのかどうかなど、メリットを享受できているかの判断がつきにくくなります。
(2)逆に費用がかさむ可能性がある
こちらも記帳代行、経理代行に共通していえますが、料金体系は基本料金にプラスして、分量によって費用が変動することが多くあります。例えば記帳代行を依頼した場合、仕訳数によって料金が増える、給与計算を依頼した場合は人数によって料金が増える、といった料金体系がほとんどです。
このため、量が多いほど代行料金が高額になり、会社の規模が大きくなると自社で雇用するよりも高くなってしまう可能性があります。
料金体系をよく把握し、定期的に中身を確認するとよいでしょう。
(3)リアルタイムでの対応が難しい
【記帳代行のデメリット】
会社の財政状態や経営成績は、できる限りリアルタイムで把握することが望ましいです。なぜなら、結果を見て少しでも早くに経営判断ができるからです。
記帳代行を依頼すると、その月の試算表をもらうのは早くても一ヵ月後くらいになってしまいます。もし自社で記帳すれば、毎日の業績を帳簿で把握することも可能です。
このため、会社規模が大きくなり、よりスピーディーな経営判断をおこないたい場合、自社で間接部門を構築していきたい場合などには、記帳代行ではなく自社での雇用に切り替えていくべきでしょう。
【経理代行のデメリット】
例えば請求書発行の代行を依頼した場合、間違いがあって早くに訂正したくても、代行業者がすぐに対応してくれるかはわかりません。なぜなら代行業者の業務体制に左右されるからです。
もしクレーム対応などの急ぎの状況でも、場合によっては対応が遅れる可能性があります。これが自社であれば、自社の判断で動くことが可能です。
このため、経理代行を依頼する際には、どこまでイレギュラーな依頼に応じてもらえるか、確認しておくとよいでしょう。
以上、記帳代行と経理代行の依頼業務、メリットとデメリットをご紹介しました。似た言葉ですが、経理代行は記帳代行を含んださらに広範囲での業務依頼が可能です。
代行にあたっては、メリットだけでなくデメリットもあります。よく把握した上で、自社の業務効率化を図れる方法を検討してみてはいかがでしょうか。
SMC税理士法人では記帳代行、経理代行の対応が可能です。検討している方は、ぜひご相談ください。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 帳簿・決算書作成 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムの著者 : 曽根 詩央里
1990年岐阜生まれのB型。 中京大学・大学院に在学中、大原専門学校に通い税理士講座を受講。 大学院卒業後、SMC税理士法人に入社。 実務経験を積み、2017年税理士登録。現在税務の他、先行経営(MAS監査)を通じてお客様の経営支援を行っている。