投稿日:2024年01月18日
更新日:2024年05月15日
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創業者一族が経営をおこなっている場合、家族を従業員として雇うことは少なくないでしょう。
一般的に、こういった事業形態は「家族経営」とよばれ、一族が株式を保有していることも多いようです。
家族経営は、家族ならではの信頼感や安心感がある一方、他の従業員との関係性について問題が生じることもあります。
この記事では、家族経営のメリット・デメリットや家族経営で起こりがちな問題、さらには、家族経営を成功させるためのコツについてわかりやすく解説します。
ぜひ、最後までお読みいただき、経営上の判断にお役立てください。
ここでは、家族経営の概要や特徴などを解説したうえで、国内における家族経営の割合について解説します。
創業者やその家族が株式を所有し、経営している会社は「家族経営」や「同族会社」、「ファミリービジネス」などとよばれます。
「家族経営」については、法律上、明確な定義は存在しませんが、一般的には、創業者一族が所有・経営しており、家族を従業員として雇っているケースが多いようです。
なお、同族会社は法人税法で「上位3株主が株式や出資金の50%以上を保有している」などの明確な定義があるため、一般的に家族経営は「同族会社」の一類型として分類されるでしょう。
法人税法における「同族会社」の定義は、以下のとおりです。
十 同族会社 会社(投資法人を含む。以下この号において同じ。)の株主等(その会社が自己の株式(投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十四項(定義)に規定する投資口を含む。以下同じ。)又は出資を有する場合のその会社を除く。)の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。
また、同族会社に類似するものに同族経営があり、国内だとサントリーやユニクロ、海外だとウォルマートやルイ・ヴィトンなどが該当します。
家族経営の特徴
家族経営の特徴は「事業の規模が小さいこと」や「家族や親族による密接な人間関係」などが挙げられます。
また、その他の特徴としては、次のようなものがあります。
人間関係が濃密な家族経営は、強い組織力を活かして大きな成果をあげることが可能です。
しかし、家族や親族だけの閉鎖的な組織になりやすいというデメリットもあり、ネガティブな印象を持たれることもあるでしょう。
国税庁が発表した令和3年度の調査結果によると、資本金1億円未満の中小規模の企業のおよそ97%が同族会社でした。
また、資本金1億円以上の大企業でも77%程度であり、日本の企業全体でも97%ほどが同族会社であることがわかります。
法人 | 同族会社 | 非同族会社 | 同族会社比率 |
---|---|---|---|
資本金1千万円以下 | 2,411,922 | 69,784 | 97.2% |
資本金5千万円以下 | 322,384 | 25,809 | 92.6% |
資本金1億円以上 | 12,951 | 3,832 | 77.2% |
合計 | 2,747,257 | 99,425 | 96.5% |
このように、企業の規模が小さいほど同族会社の割合は高くなっていることから、中小企業や個人事業主には家族経営が多いと考えられます。
限界利益にこだわった経営計画の作り方ここでは、家族経営の強みとなるメリットについて解説します。
会社の所有者と経営者が同じである場合、株主の意向に左右されずに、会社の経営方針や経営目標を決めることができます。
そのため「目先の利益だけにとらわれない大胆な経営方針を立てること」や、逆に「無理せず着実に経営をおこなうこと」などを、経営者の意思で決めることができるのです。
それにより、事業に対しての積極性や責任感が強くなることから、大きな成果につながることもあります。
家族経営では、経営方針の決定や方針転換などを家族や親族内で話し合うため、率直な意見交換ができる点は大きなメリットといえるでしょう。
また、先ほどの説明のとおり、株主の意見を考慮する必要がないため、家族や親族内だけでスピーディーに意志決定をおこなうことができます。
家族経営は、経営陣が事業を自ら創業したり、家族間で継承したりしているため、会社に対しての思い入れが強い傾向にあります。
そのため、会社のために一致団結して働くことが多く、また、家族ならではの信頼感から安心して仕事をすすめることができます。
家族経営では、会社を存続させることを第一に考えて経営がおこなわれることが多いため、経営者の任期が長い傾向にあります。
また、子や孫の代までを見据えた、長期的な視点をもって後継者の育成をおこなえる点が大きなメリットです。
さらに、取引先とも長期にわたって付き合いを続けられるので、強い信頼関係を築きやすいといった利点もあります。
家族経営では、経営者と従業員の接点が多いことから、経営者の思想や会社の経営理念が浸透しやすくなります。
経営者の考えを深く理解している人が多い環境下では、家族だけでなく、一般の従業員も自然と理解が深まるため、会社全体に経営理念が浸透しやすくなるでしょう。
また、前述のとおり、所有者と経営者が同じであるため、株主の意向などを考慮する必要もありません。結果として、自社の経営理念や経営方針にしたがって、一貫性のある経営戦略を立てることも可能となります。
多くのメリットがある家族経営ですが、当然のことながらデメリットもあります。ここでは、家族経営の主なデメリットについて解説します。
家族経営では、経営者が会社を所有し、かつ、事業運営もおこなっていることから、会社の中で大きな力を持っています。
また、外部から指摘も受ける機会も比較的少ないことから、独断的な経営をおこなう可能性もあるでしょう。
このような環境下では、強力なマネジメントをおこなえる反面、閉鎖的でワンマンな経営になりがちであるため、外部からのアドバイスを取り入れるなど十分な対策が必要でしょう。
家族を従業員とする場合、給与の金額が問題となることがあります。特に、経営者と生計を一つにしている夫婦や子どもの場合には、原則、支払った給与が経費として認められません。
ただし、個人事業主であれば、青色申告をおこない「青色事業専従者給与」の要件を満たせば、家族への給与が必要経費として認められます。
また、法人の場合には、一定の要件を満たしたうえで、役員報酬として税法上も経費として計上することが一般的です。
個人事業主と法人、いずれの場合も家族ということで「特別扱いしている」と判断され、税務署から厳しくチェックされることが多いため、給与や役員報酬として支払う金額は、慎重に決定する必要があります。
なお、家族の給与に対する注意点や、税務調査のポイントについては「家族経営で家族に給与を支払う時の注意点を個人・法人それぞれ解説」で詳しく解説しています。ぜひ、こちらもご覧ください。
家族経営の場合、事業を子どもや親族に引き継ぐケースが多いと考えられます。
一方で、後継者や相続をめぐる親族間の争いが起こるなど、家族や親族間で問題が生じることもあります。
また、後継者が決まったものの経営者としての力が足りず、業績悪化や一般の従業員の確執を招くといった問題が起こりがちです。
そのため、後継者の候補が決定している場合には、現場で経験を積ませたり、経営者としての教育を早期におこなったりすることで、経営者としての才能や資質があるか等について早い段階で判断する必要があるでしょう。
さらに、現場において一般の従業員とコミュニケーションをはかり、人間関係を構築することも大切です。
家族経営は率直な意見交換がしやすい反面、意見が合わないときには、激しい衝突が起こることがあります。
また、あらゆる面でビジネスライクに割り切ることが難しく、トラブルも起きやすいという側面もあるでしょう。
家族経営では、会社でのトラブルがプライベートにも影響を及ぼすことがあるため、深刻な問題に発展する可能性があります。
家族経営は閉鎖的なイメージを持たれることがあり、就職希望者が集まりにくいという側面があります。
また、就職後も出世の限界や待遇の差に不満が生じ、一般の従業員が定着しづらいケースもあるようです。
そのような背景が、優秀な人材の確保や定着を難しくしているといえるでしょう。
限界利益にこだわった経営計画の作り方ここでは、家族経営で生じやすい問題について詳しく解説します。
家族経営の場合には、プライベートで使う車や食事代などを会社の経費に計上するなど、経営者が会社を私物化することがあります。
また、人事を経営者の一存で決めるなど、独裁的な経営をしてしまう可能性もあります。
前述のとおり、家族経営は外部から指摘を受ける機会が少なく、経営体制を見直すきっかけが多くはないことから、私物化が進むことで周囲からの信頼を失う可能性があるでしょう。
家族経営のデメリットでも解説したように、家族経営は、経営陣が親族で占められていることが多いため、一般従業員の中には出世の限界や待遇の差などを不満に思う方もいます。
また、家族や親族などの間で起こっているもめ事に巻き込まれたり、家族や親族の固い結束に入りづらいなどの人間関係の問題が起きやすい点も、一般従業員が定着しづらい要因の一つと考えられます。
家族経営のメリットを活かすには、どのような点に気を付ければよいでしょうか。ここでは、家族経営を成功させるためのコツについて解説します。
会社の私物化を防ぐためには、外部の有識者からチェックを受けるなど、定期的に会社環境を見直すための仕組みをつくることが大切です。
前述のとおり、家族経営では、プライベートで使うことが多い車や会食費などを会社の経費としてしまうなど、会社が私物化されるケースがあります。
この場合、周囲からの信用が下がり、業績に影響する可能性があるので、私物化を防ぐためのチェック体制が不可欠です。
また、一般の従業員を雇っている場合には、評価や待遇によっては従業員のモチベーションが下がるなどの問題も起こりがちであるため、家族の従業員との公平性を保つなど、十分に配慮する必要があるでしょう。
このように、家族経営において事業を長期的に存続させるためには、ガバナンス体制を強化し、健全な経営をおこなうための仕組みをつくることが大切です。
人事の決定や経営戦略、目標設定などの意思決定については、決定までの過程や基準、根拠などをオープンにすることが大切です。
家族経営は、経営者や家族間だけで意思決定がおこなわれる傾向にあります。
このような環境下では、一般従業員の不満や不信感を高める可能性があるため、意思決定などのプロセスに透明性を持たせることで従業員たちの納得度を高め、モチベーションを維持するための配慮が必要でしょう。
家族と家族以外の従業員の待遇を平等にすることも大切です。そのためには、人事の評価基準を明確にして、すべての従業員が同じ基準で評価がおこなわれるための仕組づくりが必要でしょう。
すべての従業員に対して、仕事での成果に応じた評価や報酬を設定し、会社に対する貢献が正しく評価に反映されることで、家族以外の従業員のモチベーションアップや定着率の向上につなげることができます。
また、すべての従業員が強みやスキルを発揮できる環境を整えることも重要です。家族以外の従業員が活躍することで、一族の従業員にも良い影響をもたらすでしょう。
負債を減らすための借入金・設備投資の返済期間を公認会計士が解説ここでは、家族経営の成功事例をご紹介します。
会社が成長し、家族以外の従業員が多くなると、事業を承継した後継者は従業員からの信頼を得ることが難しくなります。そのため、事業が大きくなればなるほど、後継者にかかるプレッシャーは大きなものになるでしょう。
日本トップの自動車メーカーであるトヨタ自動車の4代目である豊田章男氏は、そのようなプレッシャーに打ち勝った中の一人といわれています。
章男氏がトヨタ自動車へ入社した際、まずは「現場力」を身につけたそうです。後継者であるからといって特別扱いされることなく、しっかりとした現場力を身につけたことが、従業員や関係者からの信頼獲得につながったとされています。
このように、従業員とのコミュニケーションにより人間関係を構築したり、現場の状況について把握したりすることは、家族経営を成功させるための一つのコツであるといえるでしょう。
ここでは、家族経営に関する「よくある質問」について、わかりやすく解説します。
前述のとおり「家族経営」については、法律上、明確な定義は存在しません。
一般的に、家族経営は創業者一族が所有・経営しているケースを指すことが多いと考えられます。そのため、家族経営の反対は、株主と経営者が別であるケース等が該当するでしょう。
家族経営では、外部からの指摘や影響を受ける機会が比較的少なく、保守的になりやすいという側面があります。
その点を考慮すると、家族経営以外の事業者と比較した場合は、イノベーションが起こりにくいといえるかもしれません。
ただし、第三者の専門家の意見を取り入れたり、家族以外の従業員を雇用したりするなどの対策をおこなうことで、革新的な発想による価値の創造も可能となるでしょう。
家族経営で家族に給与を支払う時の注意点を個人・法人それぞれ解説この記事では、家族経営のメリット・デメリットや起きがちな問題、成功させるためのコツについて詳しく解説しました。
日本の中小企業のほとんどを占める家族経営には、家族ならではの信頼感や長期で経営戦略を立てられるなどのメリットがある反面、ワンマン経営になりやすいといったデメリットもあります。
長く安定した経営をおこなうためにも、家族経営のメリット・デメリットを正しく理解し、ポイントを押さえた事業運営をおこなうことが重要でしょう。
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このコラムの著者 : 曽根 詩央里
1990年岐阜生まれのB型。 中京大学・大学院に在学中、大原専門学校に通い税理士講座を受講。 大学院卒業後、SMC税理士法人に入社。 実務経験を積み、2017年税理士登録。現在税務の他、先行経営(MAS監査)を通じてお客様の経営支援を行っている。