投稿日:2022年08月22日
更新日:2023年05月24日
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一人親方とは、狭義には「労働者を雇用せずに自分自身と家族だけで、建設業(林業)に従事する個人事業主」のことを指します。
一昔前までは「職人を束ねて仕事ができるほどの実力のある一匹狼」というニュアンスが強かったのですが、現在では「雇用契約を結んでいない建設業従事者」という点がクローズアップされます。
一人親方といっても個人事業主なので、開業して続けていくために色々な手続きや書類作成が必要になります。
この記事では、一人親方として独立しスタートを切るための手続きや書類と、その後にやらなくてはいけない事務作業などを解説します。
目次
独立するにあたって、仕事があって能力があれば稼ぐことは難しいことではないでしょう。一般的には労働者として勤務し経験を重ねたのち独立するのですが、最近では雇用せずに最初から一人親方として現場に従事させるようなケースも見受けられます。
いずれの場合であっても開業時の届出など、様々な手続きが必要になり、慣れない方にとっては非常に煩わしい作業です。まずは開業にあたってやるべきことを整理しながら、手続きについて説明します。
一人親方というと現場仕事のイメージが強いのですが、少なくとも税務上は個人事業主の一形態です。そこで一つ確認ですが、独立するこの瞬間に置かれている状況です。
個人事業主であれば仕事のノウハウはあり、この先の仕事もある程度目途が立っているでしょう。そのような状態でなければ独立などしないのでしょうが、家族の有無や今後の収入の目途について考えておきましょう。少なくとも一人親方として独立する以上は、これまでやることのなかった事務作業など面倒なことが増えます。
もし家族がいるのであれば事務作業を家族に依頼することも可能です。家族がいなければその作業をどう行うのか考えなければなりません。また健康保険や国民年金への加入なども考慮しておきます。
また一人親方であっても、日給や時給といった契約内容であるなら本来は雇用契約によって雇われるべきです。その場合に個人事業主として業務委託契約を締結させられるのは、労働法制上の問題があります。雇用契約でなければ立場が不安定なうえ、技能の習得にも困難が伴います。
この様な状況は建設業以外でも見られることで、可能な限り専門家へ相談したほうが良いでしょう。
開業して行う手続きで最初に済ませておきたいのは、国や都道府県への届け出です。この内容はというと開業した旨の届けになります。
国に対する届け出は税務署へ提出するのですが、「個人事業の開業届出」は必ず出さなければなりません。提出期限は開業した日から1ヶ月以内と定められており、必要に応じて(ほとんど必要ですが)「青色申告承認申請」や、家族をみなし従業員として給与を払うための「青色専従者給与に関する届出」を提出します。
また家族に給与を払う場合は、給与から源泉所得税を控除し納付する義務を負うので「給与支払事務所等の解説届」と、納付手続きが毎月だと作業が煩雑になるので「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」も提出し、6か月ごとの納付で済むようにすることがおすすめです。
国への届け出が済んだら、都道府県にも「個人事業開始申告書」を提出します。届出の期限は都道府県によって異なっており、東京都では開業の日から15日以内となっているので、居住している都道府県の提出期限を確認しておきましょう。
個人事業開始申告書の提出によって、地方税である個人事業税が課税されるようになりますが、届出の事業内容によって税率が変わってきます。
一人親方は個人事業にあたるので、1年間の収入(売上)や支出(経費)をまとめて収支計算書を作成します。申告時に「青色申告特別控除」で55万円控除(最大65万円控除)を選択する場合、収支計算書だけではなく資産と負債を計算した「貸借対照表」も作成します。
これが完成したら確定申告に進むのですが、慣れないうちは売上計上の時期や、経費になるのかならないのか、また資産の計上など難しいことが多いと思うので、税の専門家に相談しましょう。
年1回の確定申告だけではなく、事業専従者へ給与を払う場合は源泉徴収事務(給与から所得税を控除して税務署へ支払うこと)も年間最大12回行わなければなりません。
一人親方として働く場合、建設業の許可が必要なのかも考えましょう。許可がなくても「軽微な工事(請負金額が500万円以下の工事等)」はできますが、将来的なことを考えれば取得しておくべきです。
建設業の許可は、法人よりも個人での取得の方が簡単ですが、もし将来法人化した場合は新たに許可を法人で取りなおさなければなりません。また個人の許可はその本人のみ有効なので、もし本人が亡くなった場合などは、一緒に建設業に従事しているお子さんがいても許可は取り消されます。
一人親方として独立し仕事量も増えてくれば、そろそろ次のことも考えなければなりません。さらに2023年10月1日から開始される消費税の「適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)」への対応も検討する必要があります。
ここからは制度の変化を含めた一人親方の次代への対応を考えていきましょう。
一人親方を含む個人事業主であっても、年間の売上高が1千万円を超えると翌々年から消費税の課税事業者になります。開業2年目から課税になるケースもありますが、詳しくは税理士に確認しましょう。つまり1年間の売り上げが1千万円以下であれば消費税を払う必要がないのですが、インボイス制度の開始によってそう言っていられなくなる可能性があります。
消費税の計算は、原則として売上などで受取った消費税(仮受消費税)から、経費などで支払った消費税(仮払消費税)を引いた差額を収めることになります。今までは経費の支払先が消費税の課税事業者でなくても「消費税を支払っている」という扱いでした。
ところがインボイス制度の導入後は、「適格請求書を発行できる事業者」に支払ったもの以外は、消費税を払ったとはみなされなくなります。
仕事をくれる元請けの立場で簡単に言えば、「消費税を払っていない下請けに仕事を出すと、消費税で損をする」ということです。
具体的な影響はこれからですが、消費税の非課税事業者でいることで、仕事が減る可能性もあるので、税の専門家に相談した方が良いでしょう。
家族を事業専従者や従業員として使う場合も、税務上は気を付けなければなりません。税務調査では突っ込みどころでもあるので、この記事を参考にしてみてください。
家族経営で家族を雇った時の税金上の注意
節税と称して「家族の給与は操作しやすい」と税務署サイドから思われがちなので、注意しましょう。
一人親方として実績を積んでいけば請け負える仕事も増えていき、いずれ従業員を雇う日がやってくるかもしれません。そう、一人親方の卒業です。
また建設機械の導入や事業資金の借入れ、そして法人の設立なども視野に入ってきます。ここまでくると、何から何まで自分でやるというのは難しくなっているはずです。
こんなときは信頼できる相談相手を見つけることが重要になってきます。怪しいコンサルなどは「必要もないのに法人化させる」といったケースも聞かれるので、一人親方の立場で考えてくれる専門を探しましょう。
基本的に良いことしか言わず、デメリットについて説明しないところは信用できません。変化をするときは必ずメリットとデメリットがあると思っておいた方が無難です。
一人親方の良し悪しは考えずとも、ひとりで本業をこなしながら(こちらも本業ですが)事務使途をしたり税制のことを考えたりするのは大変です。
分からずやっていることで、助成金など受けられなかったり、税務調査で思わぬ追徴課税を受けたり、そんなリスクを避けるためにSMC税理士法人を活用することも、選択肢に加えてはいかがでしょうか。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 経営改善 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
インボイス制度の内容を分かりやすく解説するとともに、適格請求書発行事業者にならないとどうなるか、現在準備しておくべき事項は何かについてご説明します。
このコラムの著者 : 菱刈 満里子
大学卒業後、大手証券会社、文部科学省研究室秘書等を経験後SMC税理士法人に入社。 会計・税務業務に13年間携わった後、経営計画を中心とした未来経営に軸足を移す。 のべ150社以上の経営計画を作成、経営支援を行っている。