投稿日:2022年01月28日
更新日:2023年03月17日
この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。
所得拡大促進税制は従業員の給与を増やした企業を支援する制度です。
制度を利用することで、従業員の待遇改善を図ると同時に法人税の優遇措置を受けることができます。
この記事では所得拡大促進税制の概要や対象となる中小企業、制度を利用するメリットを解説します。
目次
所得拡大促進税制とは、中小企業が従業員への給与等の支給総額を前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除する制度です。
企業が獲得した利益を従業員に還元し、個人所得の改善し、経済の安定した循環を支えることを目的としています。
制度が適用される条件と享受できる税額控除は「通常」と「上乗せ」の2種類があります。
所得拡大促進税制の対象となる中小企業等は青色申告書を提出する者に限定されます。
また、経済産業省が公表している「中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック」では、対象となる中小企業等について以下のように定義しています。
通常の適用要件と税額控除は以下のとおりです。
<適用要件>
従業員への給与等の支給総額が前年度と比べて、1.5%以上増加
<税額控除>
控除対象雇用者給与等支給増加額の15%が法人税額または所得税額から控除
ただし、上記適用要件の「給与等」には以下のものが含まれます。
一方で退職金は「給与等」に該当しないので、注意が必要です。
また、給与等が1.5%以上増加という条件は以下のように計算します。
(雇用者給与等支給額(適用年度)ー 比較雇用者給与等支給額(前事業年度))
÷比較雇用者給与等支給額(前事業年度)≧1.5%
通常の適用要件に加えて、従業員の給与水準を引き上げた場合には税額控除の枠が拡大されます。その場合の適用要件と税額控除は以下のとおりです。
<適用要件>
雇用者給与等支給額が前年度と比べて 2.5%以上増加しており、かつ次のいずれかを満たすこと
<税額控除>
控除対象雇用者給与等支給増加額の25%を法人税額又は所得税額から控除
ただし、法人税額又は所得税額の20%が控除上限額となります。
適用要件の「教育訓練費」について、以下のようなものが想定されます。
中小企業が所得拡大促進税制を活用するメリットについて解説します。
従業員に支給する給与を増やすことで、増加分の一部を法人税から税額控除することができます。したがって、法人税の負担が軽減され、手元に残るキャッシュが増加します。
そのキャッシュを設備投資や研究開発費などに回すこともできるでしょう。
「従業員の給与を上げたいが、経営的に厳しい」という中小企業であっても、税額控除があることで、給与引き上げのハードルが低くなります。
所得拡大促進税制では従業員の給与を引き上げることが適用要件となっています。
給与を仕事のモチベーションにしている従業員は少なく有りません。
したがって、給与を引き上げることで、従業員のモチベーションが向上し、会社の利益が増加するかもしれません。
また、競合他社と比較して、給与水準が高ければ、求職者から見て「魅力的な企業」となり、採用活動の負担も軽減されるでしょう。
所得拡大促進税制は従業員の給与水準を上げた場合に法人税が減額される制度です。
給与増加による従業員のモチベーション向上と法人税の優遇措置という2つのメリットがあり、結果として会社の利益が増加することが期待されます。
一方で足元の資金繰りや制度の適用を受けるための諸手続きを考慮すると、すべての中小企業にとって制度の活用が最適解であるとは限りません。
所得拡大促進税制を期待し給与の増加を実施したが、結果的に利益が赤字の場合には、
減額すべき法人税の発生がないため、期待していた節税のメリットを受けることができません。
また、税金の減額は決算の確定申告時に効果が出るものであるため、給与の支給が先になります。つまり、人材への投資が先に必要で資金繰りの悪化も懸念されます。
メリットも大きいですが、デメリットもあります。
制度活用にあたっては、税理士や外部の専門家と相談して、検討しましょう。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 経営改善 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。