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賃上げによる税額控除と助成金の手続きを丸ごと解説!

投稿日:2024年10月17日

更新日:2024年10月17日

経営者が知っておくべき「利益とキャッシュの最大化」セミナー

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

「従業員の賃金を上げたいけれど、なるべく会社の負担をおさえたい…。」そんな悩みをお持ちの経営者が利用したいのが、「税額控除」と「助成金」です。

この記事では

  • 賃上げ時に使える税額控除
  • 賃上げ時に使える助成金
  • 税額控除と助成金を受けるための具体的な手続き

などについて、わかりやすく解説します。

会社負担をおさえて賃上げをおこないたい経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。

賃上げで利用できる税額控除と助成金には何がある?

賃上げで利用できる主な税額控除と助成金には、以下のようなものがあります。

  • 税額控除・・・賃上げ促進税制
  • 助成金・・・業務改善助成金およびキャリアアップ助成金

賃上げ促進税制は、賃上げをすることで税金の支払がおさえられる制度です。

業務改善助成金やキャリアアップ助成金は、賃上げをすることで条件に応じた金額が政府から支給されます。

どちらも会社負担をおさえながら賃上げをおこなうのに有効な手段であり、賃上げを検討しているのであればぜひ利用したい制度です。

ただし助成金目的であれ税額控除目的であれ、一度賃上げした賃金を下げるのは難しいものです。将来的には会社の負担になる可能性がある点は留意しておきましょう。

なお、賃上げに関わらず、会社経営に際し使える融資や補助金などもあります。

  • 融資・・・企業活力強化貸付
  • 補助金・・・事業再構築補助金など

資金繰りに困っている場合などに有効な手段ですので、必要に応じて利用を検討してください。

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賃上げによる税額控除「賃上げ促進税制」の具体的な手続き

まずは賃上げで利用できる税額控除「賃上げ促進税制」の概要と、具体的な手続きをみていきましょう。

賃上げ促進税制とは?

賃上げ促進税制は、企業の賃金引上げや人材育成を目的として設立された制度です。2013年4月にはじまった「所得拡大促進税制」を前身としており、2022年に「賃上げ促進税制」に名称変更されました。

賃上げ促進税制を利用すれば、給料や教育訓練に関わる費用を増加させるなど一定の条件を満たすことで、その増加額の一部を法人税から控除することができます。

つまり賃上げによる支出の増加を「法人税の税額控除」という形で補うことができるようになり、結果として会社負担をおさえながら賃上げや人材育成がしやすくなるのです。

賃上げ促進税制の改正点〈中小企業向け〉

賃上げを考える経営者なら利用したい「賃上げ促進税制」ですが、2024年に税制改正により最大控除額が45%まで上がり、さらに賃上げのメリットが大きくなりました。

2024年の賃上げ促進税制改正により、中小企業が受けられる控除率は以下のとおりです。

基本控除額 全雇用者の給与支給額 税額控除額
前年度比 +1.5%以上 15%
前年度比 +2.5%以上 30% 最大控除率
45%
上乗せ控除率 教育訓練費費用増加割合5%以上※1 10%
子育て・女性支援※2 5%

1.ただし教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上の条件あり
2.くるみん以上、もしくは、えるぼし二段階目以上

また、税制改正で中小企業は赤字でも最大5年間控除を繰り越すことが可能になりました。
赤字企業であっても、将来的な成長を見越して人材投資などがおこないやすくなったのもポイントです。

賃上げ促進税制を最大限活用するための手続き

賃上げ促進税制を活用する際、事前申請や届け出といったものは必要ではありません。

しかし賃上げ促進税制を受けるには、法人税または所得税の申告をするときに、確定申告書にて「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」や、「給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」などを添付する必要があります。

具体的な「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」と「給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」の書き方をみていきましょう。

【例】

ABC株式会社の例

給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書

給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書

なお「教育訓練費の増加」による税額控除の上乗せ措置を受けるためには、教育訓練費の増加内容がわかる以下のような内容が含まれた書類を保存しなければなりません。

  • 教育訓練の実施時期
  • 実施内容
  • 期間
  • 受講名など

内容の証明のため、しっかりと書類を保管しておきましょう。

また、くるみん以上、もしくはえるぼし二段階目以上を取得することで、さらに「5%」控除の上乗せが可能です。
※適用時期は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度。個人の場合は令和7年から令和9年分。

くるみん、およびえるぼし認定を受ければ認定マークを商品などに付けることができ、税額控除のためにはもちろん、企業のイメージアップのためにもぜひ取得したい認定です。

賃上げでもらえる助成金①「業務改善助成金」の具体的な手続き

次に、賃上げでもらえる助成金「業務改善助成金」の概要と、具体的な手続きをみていきましょう。

業務改善助成金とは?

業務改善助成金は以下の条件を満たすことで、その投資にかかった費用の一部を国が助成する制度です。

  • 企業が生産性を向上させるための設備投資(機械の導入やコンサルティング、人材育成や研修など)を実施すること
  • 事業場内の最低賃金を各コースで定められた額以上に引き上げること

生産性を向上させることで浮いたコストを、従業員の賃金として還元させることを狙った制度ともいいかえられます。

なお、業務改善助成金は報告書を提出し、政府側が受理してはじめて助成金が受け取れる制度です。

次項から説明する業務改善助成金の受給要件や手続きをしっかりと確認し、スムーズに助成金が受け取れるよう準備しておきましょう。

業務改善助成金の受給要件

業務改善助成金を受給するには、以下の要件を満たす必要があります。

業務改善助成金の受給要件 1. 中小企業・小規模事業者であること
2.事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
3.解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないこと

業務改善助成金の助成額と申請区分

業務改善助成金を申請してもらえる助成額は、申請区分(コース区分)により違います。
コース別の助成上限額は以下のとおりです。

コース区分 最低賃金引き上げ額 賃金引き上げ対象従業員数 助成上限額
事業場規模
30人以上の事業者
事業場規模
30人未満の事業者
30円コース 30円以上 1人 30万円 60万円
2~3人 50万円 90万円
4~6人 70万円 100万円
7人以上 100万円 120万円
10人以上※ 120万円 130万円
45円コース 45円以上 1人 45万円 80万円
2~3人 70万円 110万円
4~6人 100万円 140万円
7人以上 150万円 160万円
10人以上※ 180万円 180万円
60円コース 60円以上 1人 60万円 110万円
2~3人 90万円 160万円
4~6人 150万円 190万円
7人以上 230万円 230万円
10人以上※ 300万円 300万円
90円コース 90円以上 1人 90万円 170万円
2~3人 150万円 240万円
4~6人 270万円 290万円
7人以上 450万円 450万円
10人以上※ 600万円 600万円

事業場内最低賃金が950円未満の事業場や物価高騰等要件を満たす特例事業者が対象

業務改善助成金を受けるための手続き

業務改善助成金を受けるための企業側の具体的な手続きは、以下の7ステップです。

  1. 交付申請書の提出
  2. 助成金交付通知受取
  3. 業務改善計画・賃金引上げ計画の実施
  4. 報告書提出
  5. 助成金額確定通知受取
  6. 請求書作成・提出
  7. 助成金受取

手続きの流れは、以下の図のとおりです。

業務改善助成金を受けるための手続き

それぞれのステップについて、みていきましょう。

【1.交付申請書の提出】
事業改善計画と賃金引上計画を記述した交付申請書を、都道府県労働局に提出します。

【2.助成金交付通知】
申請書が受理されると、労働局から助成金交付通知がきます。

【3.業務改善計画・賃金引上げ計画の実施】
交付申請時に提出した事業改善計画と賃金引上計画に基づき、賃上げや設備投資をおこない、生産性を向上させます。

【4.報告書提出】
業務改善計画の実施状況と賃金引上の状況を明記した事業実績報告書を、都道府県労働局へ提出します。

【5.助成金額確定通知】
4.の書類が受理されると、確定した助成金額が通知されます。

【6.請求書作成・提出】
通知された助成金額を基に請求書を作成し、労働局に提出します。

【7.助成金受取】
助成金が支払われます。

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賃上げでもらえる助成金②「キャリアアップ助成金」の具体的な手続き

最後に、賃上げでもらえる助成金「キャリアアップ助成金」の概要と、具体的な手続きをみていきましょう。

キャリアアップ助成金とは?

キャリアアップ助成金とは、有期雇用や短時間労働、派遣労働などの非正規雇用の労働者の待遇改善やキャリアアップを目的に制定された助成金制度です。

非正規雇用の社員を正社員化したり、給与面などで待遇改善したりと一定の条件を満たすと、厚生労働省から事業主へ助成金が支払われます。

キャリアアップ助成金の受給要件〈中小企業の場合〉

キャリアアップ助成金は、大きく「正社員化支援」と「待遇改善支援」の2つにわかれますが、賃上げに直接関わってくるのは「待遇改善支援」です。

待遇改善支援は、さらに4つのコースにわかれます。

待遇改善支援4つのコース

中小企業が非正規雇用労働者の処遇改善をした場合に受け取れる支給金額と、その条件をみていきましょう。

コース名 条件 支給金額
賃金規定等改定コース 対象となる非正規雇用者の賃金引上げ率
3%以上5%未満
50,000円
対象となる非正規雇用者の賃金引上げ率
5%以上
65,000円
職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合 上記金額に
200,000円加算
賃金規定等共通化コース 有期雇用労働者等に、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合 600,000円
賞与・退職金制度導入コース 賞与又は退職金制度いずれかを導入した場合 400,000円
賞与及び退職金制度を同時に導入した場合 568,000円
社会保険適用時処遇改善コース 【手当等支給メニュー】
労働者負担分の社会保険料相当額(標準報酬月額等の15%以上)の手当支給又は賃上げした場合
400,000円
(100,000円 × 4期 ※ )
1期6か月
【労働時間延長メニュー】
週の所定労働時間を4時間以上延長
もしくは当該労働者が社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合
300,000円

キャリアアップ助成金を受けるための手続き

キャリアアップ助成金を受けるための企業側の具体的な手続きを確認しましょう。申請書類は、以下の「4つ」です。

  • キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
  • 各コース内訳
    ・賃金規定等改定コース(様式第3号・別添様式3)
    ・賃金規定等共通化コース(様式第3号・別添様式4)
    ・賞与・退職金制度導入コース(様式第3号・別添様式5)
    ・社会保険適用時処遇改善コース(様式第3号・別添様式6)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払方法・受取人住所届 未登録または振り込み口座変更の場合

各コースに応じて別途添付書類が必要になったり、場合により追加書類が求められたりする点は注意が必要です。

キャリアアップ助成金支給申請書は、以下のように記入します。

キャリアアップ助成金支給申請書の記入例

キャリアアップ助成金の申請から受給までの流れは、以下のとおりです。

キャリアアップ助成金の申請から受給までの流れ

【Step1.計画の作成・提出】
事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、「キャリアアップ計画」を作成します。

【Step2.労働局長の認可】
キャリアアップ計画を事業所を管轄する労働局に届出をおこない、認定をもらいます。

【Step3.就業規則などの改正】
各コースの受給要件に基づいて、賃金や社会保険加入などについて就業規則を改正します。

【Step4. Step3.の実施】
Step3の改正に基づき、改正内容を実施します。

【Step5. 6カ月の賃金支払い】
就業規則などの改正後、6ヵ月間継続雇用し賃金を支払います。「賞与・退職金制度導入コース」の場合は初回の賞与支払、もしくは、6か月間の退職金積み立てをおこないます。

【Step6. 助成金の申請】
Step5が完了したあと2か月以内に、労働局へ助成金を申請します。

【Step7. 助成金の承認・支払】
労働局から、助成金申請の承認を受けます。

【Step8. 助成金の受取】
労働局から、助成金を受け取ります。

まとめ

今回ご紹介した税額控除や助成金は、会社負担をおさえながら賃上げができる、中小企業にとってメリットの大きい制度です。

労働力不足がさけばれる昨今、人材の確保や従業員のモチベーションアップに大いに活用したいものです。

一方で、助成金などを受けるにはあらかじめ用意しなければならない書類などもあり、制度を理解しないと控除や助成金が受けられない可能性があります。ポイントをしっかりおさえて、制度を有効に活用しましょう。

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このコラムの著者 : 長縄 龍哉

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