投稿日:2021年07月05日
更新日:2023年08月24日
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中小企業が銀行へ融資申込をするときに必ず決算書の提出が求められます。その決算書を銀行なぜ必要とするのか、銀行員が決算書を見るポイントはどういったところかを知っておくと融資交渉を有利に行えます。
このコラムでは、融資経験豊富な元銀行員の中小企業診断士が、銀行に決算を提出する際の必要書類やポイントについて事例を交えて解説していきます。
目次
新規で融資申込をする場合あるいは融資を利用中であると、銀行はその企業の「返済能力」を見極めなければなりません。貸したお金がキチンと返ってくるかどうか確認する必要があるということです。その判断材料の一つとして必ず決算書が必要となります。これは決算書には会社の損益や資産・負債の状況の他に主たる取引先の状況など基本的な事業情報が記されているためです。
そのため融資判断の基礎資料として金融機関は必ず決算書の提出を求めます。また、新規取引の場合過去3期分程度の提出を求められるでしょう。これは直近の経営状況だけでなく今までの経営状況がどうだったのかその傾向をみるためです。そのため銀行は財務データと呼ばれる時系列で数値を並べた決算情報を作成し、その変化や傾向を見極めるということをします。
つまり、一番最近の決算情報のみで判断するのではなく、過去からの業績傾向を融資の判断基礎においているということです。仮に直近期で大きく黒字が出ていたとしてもその前2期が赤字だとしたら、その黒字は本当に実力なのかという目線で見られることになります。
補助金の採択率を上げる5つのコツ既に銀行と融資取引ある場合、決算書を提出する時期は手元に決算書が到着次第です。多くの事業者の方は税務申告を顧問税理士へ依頼しているかと思います。そのため、事実上、決算書を銀行へ提出する時期は顧問税理士から申告手続済の決算書が到着してからということになります。
基本的には決算月から3~4か月後となります。例えば3月決算の企業であれば、原則として税務署宛の税務申告を5月までに行うことになります。通常であれば税務申告を終えて顧問税理士から手元に決算書一式が届くのが6月になると思いますので、6月中にあるいは遅くとも7月中に銀行へ提出することになります。
12月期を決算期として例年2/16~3/15まで(消費税は3/31まで)に確定申告手続を行います。そのため、決算書が手元に揃うのは早い方は2月、遅くとも4月にはなるかと思います。こちらも決算書(確定申告書)一式が手元に揃い次第、銀行へ提出することになります。
決算書が必要な時期が来ると銀行側から提出依頼が来ます。融資取引があれば銀行側も決算期がわかっていますので、決算書が揃う時期を把握しているためです。基本的には決算書原本の提出が要求されるので多くの場合紙媒体で提出することになります。尚、偽造等を防ぐ目的で税務署受付印もしくは電子申請データの原本提出も求められます。原本提出を受けた銀行はコピーをとってそれを保管し、原本は企業側へ返却します。
決算書と一口に言ってもどこまで必要かということになりますが、税務申告するときに税務署へ提出した書類全てです。決算申告書一式ということになります。
一般的には、
以上となります。顧問税理士がいれば顧問税理士から受け取る決算申告書一式には上記は網羅されているはずです。
一般的には、
以上となります。法人の場合と同様に、顧問税理士がいれば顧問税理士から受け取る確定申告書一式には上記は網羅されているはずです。
税務署へ提出したものと相違ない決算申告書一式を全て提出するようにしましょう。時折、銀行に自社の情報をあまり知られたくないからといって、貸借対照表と損益計算書の部分だけ提出する企業がありますが絶対にやめましょう。何か不都合なことがあるのかと勘繰られてかえって信用を落とします。又、銀行側としては必要な情報が充分にそろわないため経営分析に支障をきたします。そのような企業へ銀行は融資したいと思いません。融資取引において決算書の部分的な提出は「百害あって一利なし」ですので、全て提出するようにしましょう。それが銀行からの信用を得る第一歩です。
銀行が融資したくなる決算書とは?注意すべき4つのポイント顧問税理士によっては決算申告書一式の他に様々な経営分析資料をつけてくれたりします。売上・利益推移データや経営指標といったものです。経営分析資料があるようでしたらこれも併せて銀行へ提出するようにしましょう。分析資料を銀行側で作成する手間が省けるので喜ばれるのと、経営分析を自らできている企業として信用度アップが期待できます。
個人事業者の確定申告書については、法人と比べて簡略記載となっており情報が少ないです。できれば勘定科目内訳明細書を作成して添付するようにしましょう。また法人の場合と同様に経営分析資料がついていると喜ばれます。
決算書を手に入れた銀行員は何を見ようとしているのか。主なポイントは次の3つ。「実態財務」「企業体力」「返済可能性」です。
決算書の内容をチェックして本当に実態を表した数値が計上されているのか確認します。その上で決算書の数値を加算・減算し「実態財務」を見るようにしています。
特に貸借対照表の「資産の部」に計上されている各勘定科目の数値が適正なのか見ます。主なチェックポイントは「現金」「売掛金」「棚卸資産」「仮払金」「貸付金」です。「現金」「売掛金」「棚卸資産」は粉飾決算でよく使われるので要チェック科目です。「仮払金」「貸付金」は「仮に払った」「貸し付けた」お金が本当に戻ってくる可能性があるか見ています。要するに「キチンと現金化できる資産」であるかどうかをチェックして、そうでなければ資産から控除しています。
一方で、損益計算書においては「減価償却費」の計上をしているかどうかみます。会計的には減価償却費の計上は任意ですが、銀行としては減価償却費を計上してしかるべきと考えています。計上できるのにしないのは企業実態以上の業績に見せかける行為に他ならないからです。銀行の心証を良くするために減価償却費を計上しない(=利益額を多く見せかける)ということは避けましょう。
このように、決算書上の数値で財務内容を判断するのではなく、実態の経営に近い数値へ修正した、「実態財務」で銀行は企業の財務内容を判断しています。
実態財務で出した数値に基づいて企業体力を見に行きます。その上で必ず見るのが「純資産」です。簡単に言うと資産と負債の差額部分となります。そして負債より資産の方が多いことを「資産超過」、資産より負債が多いことを「債務超過」といいます。資産超過が大きければ大きいほど企業としての体力がある=安全性が高いとなります。反対に、債務超過が大きければ大きいほど危険な企業とみられます。債務超過にある企業が経営的に危ない企業とみなされるので、融資を受けるのはかなり難しくなります。ちなみに決算書上は資産超過となっていても、実態財務で見た場合に債務超過になっている企業を「実質債務超過」といいます。そのため企業側は経営が良いと思っていても、銀行側は「実質債務超過」とみている場合があります。
返済の原資はキャッシュですので、決算書ではまず「現預金」の残高を確認します。お金が尽きれば倒産するのですが、銀行側もこれは十分承知しています。そのため今後事業を継続していくのに十分な資金を持っているか、返済に困らない資金繰りとなっているか、をチェックするためにまず「現預金」残高をみるのです。そのため利益がいくら大きくても手元の現預金が少なければ危ない企業とみられます。次に見るのが、収益力に基づく返済能力です。銀行によって様々ですが概ね「利益」+「減価償却費」を簡易キャッシュフローと呼び、返済の財源としています。この返済財源が年間返済額以上となっていないと、黒字なのにお金が減っていくことになるので、返済財源>年間返済額となっているかをチェックします。併せて債務償還年数と呼ばれるものも確認します。これは減価償却費を含む利益を全額返済に充当するとしたら何年で返せるのかをみます。例えば、利益5百万円、減価償却費5百万円、借入残高1億円、であれば、借入残高1億円÷(利益5百万円+減価償却費5百万円)=10年、と算出します。この債務償還年数は概ね10年以内となっていれば良好と判断されます。この3点で返済可能性を見極めるケースが多いです。
今さら聞けない融資の基礎①キチンと経営実態を反映した決算書にするということです。赤字なのに黒字に見せかけるために架空売上や架空在庫を計上したり、それまで行っていた減価償却費の計上をやめてみたりといったことはしてはいけません。架空計上は一度手を染めると二度と後戻りできなくなりますし、発覚した時点で銀行の信用を一気に失います。また、減価償却費の計上をしないことで黒字に見せかけても銀行内で計算し実質の利益額を算出しています。そのため、決算書上は黒字でも銀行判断上は赤字の企業とみなされます。ごまかしの計上をする会社というレッテルも貼られるでしょう。ごまかしのない経営実態をキチンと反映した決算書にするといったことが信用を得るための基本です。
さらには事業運営とは直接関係のない資産も持たないことです。高級車やリゾート会員権、投資用資産(株式、不動産)などを計上していると「派手な企業」「金遣いが荒い企業」とみなさされる可能性はあります。金遣いの荒い派手な会社には銀行は手を差し伸べません。売上や利益を生み出すことに貢献しない資産を持つことは避けましょう。
決算書にはその企業がやってきたことが数値として表れます。そのため銀行は決算書でその企業の経営実態がどうなっているのかをチェックしています。企業の信用力を判断する入口と言えます。銀行から信用を得たければキチンと経営実態を反映した決算書を提出するようにしましょう。提出しないのはもってのほかです。そのような企業を銀行が信用するはずがありません。適切な決算書を適切な時期に提出して銀行との良好な関係を築いていきましょう。
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銀行が融資先の経営状況を把握できないので、新たな融資を受けることが難しくなります。
新たな融資を受けることが難しくなったり、金利が引き上げになる可能性があります。ただし遅れなく返済している限りはそのまま借り続けることができます。
原則として貸借対照表なしでも融資の申込はできます。ただし、貸借対照表なしだと信用力を低く見られる可能性があるので、貸借対照表がある方が望ましいです。
このコラムの著者 : 小川弘郎
中小企業診断士 金融機関OB 20年勤務した金融機関在籍時には融資担当や企業改善支援担当を歴任、融資現場における多数の経営支援や事業再生の実践経験を持つ。会計業界に転身後は経営計画に基づく経営サポートを行っている。経営戦略、経営管理、資金繰りが専門。