投稿日:2022年05月16日
更新日:2023年06月09日
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中小企業が銀行から融資を得るときにほとんどの場合、経営者個人にその借入金に対する保証を求められます。これが経営者保証・個人保証です。できれば、この経営者保証・個人保証を外すように対応してもらいたいですよね。
このコラムでは、融資経験豊富な元銀行員の中小企業診断士が、経営者保証・個人保証を外すための方法について、事例を交えて解説していきます。
目次
経営者保証・個人保証とは一般的に、自身が経営する会社が銀行から融資を受けるときにその融資の保証人になること、をいいます。会社の信用力を補完するために、代表者などの個人保証を求められるケースがほとんどです。又、中小企業は個人資産と会社資産がほぼ一体となって経営が行われていることが多く、会社の経営者が一体となってその返済を担保する必要があると考えられるのです。尚、保証人といっても銀行融資の場合は「連帯保証人」です。簡単にいうと、連帯保証した借入が返せなくなった場合、借入人に代わって返済する義務を負う人です。
厳密にいうと、単なる「保証人」と「連帯保証人」はその責任範囲が違います。「保証人」の場合、
(ア)催告の抗弁権
(イ)検索の抗弁権
(ウ)分別の利益
が民法により認められています。「連帯保証人」にはこの3つの権利はありません。
「催告の抗弁権」とは、お金を貸した人(債権者)が突然保証人に請求をしてきた場合は、「まずは主債務者(お金を借りた人)に請求をしてください」主張する権利のことです。
「検索の抗弁権」とは、主債務者が返済できるお金や資産(=資力)を持っているにもかかわらず返済を拒否したとします。その場合、保証人であれば主債務者に資力があることを理由に,債権者に対して主債務者の財産から返済を受けるように主張することができます。
「分別の利益」とは、保証人が複数いる場合,保証人はその頭数で割った金額のみを返済すればよいという権利です。
以上のことから、「連帯保証人」は主債務者の返済が滞った場合、債務者から突然、全額支払うように請求されても文句が言えない、ということになります。
それだけ連帯保証人には重い責任が課せられているといえます。
尚、保証人や連帯保証人に関する法的な義務等に関しする詳しい事は、お近くの弁護士や法律相談で確認していただけますようお願いいたします。
以前は、銀行融資で経営者以外の第三者に連帯保証人になってもらうケースが少なからずありました。これは、会社や経営者の信用力では不十分な場合、第三者の資力を担保として融資をするといったことがあったためです。「知人の保証人になってしまったがために、莫大な借金を背負うことになった」という話を耳にすることがあます。これがまさに第三者による連帯保証のケースです。
現在では銀行融資において、経営者以外の第三者を連帯保証人に取るケースはほぼレアとなっています。これは、事業に関与していない第三者が、社会的にも経済的にも重い負担を強いられることが大きな社会的問題となったことが発端です。そのため金融庁や中小企業庁から基本的に経営者以外の第三者の連帯保証を求めないように指導するようになりました。更には民法が改正され、事実上、融資において第三者に連帯保証を求めるケースがかなり制限されました。そのような経緯もあり、現在では銀行融資において経営者以外の第三者に連帯保証人を求めることはほぼ無くなってきています。
経営者保証を外すことの最大のメリットは、経営者自身の財産を守れるという点です。
経営者が法人の連帯保証人である限り、法人と一蓮托生です。万一、経営がうまくいかず倒産となった場合、会社と一体となって借りたお金を支払う義務を負います。経営者個人で所有する資産を処分して返済に充てなければなりません。その金額が莫大だと返済しきれずに会社と共に自己破産せざるを得なくなる場合もあります。
仮に自身が経営する会社の銀行借入金について一切連帯保証人になっていないとします。不幸にも会社が倒産するとなった場合、経営責任はあるにせよ法的には銀行借入金に対して経営者が個人として支払いをする義務はないため、自身の財産を守れることになります。
一方で、最大のデメリットは、融資において会社の信用力が落ちる可能性がある、ということです。銀行融資を得るための最大ポイントは会社の信用力です。その信用力が充分でない企業に経営者保証がない場合、融資審査上マイナスの評価をされるのは免れないでしょう。
自身が経営する会社の借入について連帯保証人になりたくないからといって、銀行へ頼めば保証を外してくれるといった簡単な話ではありません。
経営者保証を外すためには、原則として経営者保証に関するガイドラインに沿って行われることになります。これは中小企業の経営者保証のあり方について国から示されたものです。
尚、同ガイドラインついては「経営者保証に関するガイドライン事務局」(中小企業庁より株式会社パソナが受託)が運営しているwebサイト「あなたの挑戦を後押しする 経営者保証に関するガイドライン」が参考になるでしょう。
同ガイドラインによると、「主たる債務者及び保証人における対応」として、以下のように示されています。尚、主たる債務者=会社、保証人=経営者、ということになります。
『主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、まずは、以下のような経営状況であることが求められる。
(ア)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
(イ)財務基盤の強化
(ウ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保』
(経営者保証に関するガイドラインより抜粋)
以上の3つの要件を鑑みて個別企業毎に検討していくということになります。ではこの3つの要件は具体的にどういうことでしょうか。
(ア)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
「主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。」(経営者保証に関するガイドラインより)
多くの中小企業では、法人と経営者の資産やお金が入り組んでいます。会社の運転資金のために経営者が資金投入(役員借入金)したり、会社の工場の土地・建物の所有が経営者になっていたり、社長の個人利用目的の車が会社所有になっていたり、といったことが例に挙げられます。こういった資産やお金の入り組んだ状態の解消=法人個人の一体性の解消、が求められているということになります。
(イ)財務基盤の強化
「経営者保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。」(経営者保証に関するガイドラインより)
経営者保証は会社の信用力の補完である以上、それを外すということは経営会社がそれにふさわしい信用力を有していることが必要となります。財務内容、業績、返済能力に問題がないということが前提ですよ、ということです。少なくとも、債務超過や返済に窮しているような状況ではこのガイドラインに示されている要件は満たせないでしょう。
(ウ)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
「主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。」(経営者保証に関するガイドラインより)
銀行側から求められた場合に経営会社の決算状況や業績、事業見通し、経営者の財産状況などを隠すことなく情報を適切に開示して、きちんと説明してくださいね、という意味です。都合の悪い情報を隠したいという不透明な経営をしている会社は信用できないので、経営者保証を外すことはまず無理でしょう。
以上のような3つの要件を中小企業側でクリアすることが求められます。必ずしもきっちり3要件ともクリアしなければならないということはありません。ただ3要件を一つもクリアできないようでは経営者保証を外すことは難しいでしょう。
最近では、日本政策金融公庫や信用保証協会といった公的な融資制度においては、一定要件を満たせば経営者保証(代表者保証)を免除する融資制度があります。ただし、いずれも経営者保証に関するガイドラインに沿った取り扱いとなっています。
日本政策金融公庫:経営者保証免除特例制度
東京信用保証協会
愛知県信用保証協会
大阪信用保証協会
詳しくはそれぞれの金融機関窓口へお問い合わせください。
軽減税率に対応するレジの購入や改修などに係る費用についての補助金経営者保証を外すうえで最も大事なのは、「金融機関との信頼関係」です。お互いがお互いを信用できる関係性を築きあげましょう。
さらに「経営者保証に関するガイドライン」に示されている3要件①法人と経営者との関係の明確な区分・分離 ②財務基盤の強化 ③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、を実現するようにしましょう。
その上で、金融機関側と交渉すれば、経営者保証を外せる可能性はかなり高くなります。
一番のポイントは「会社の信用力」です。財務内容を良くし、業績を向上させ、経営情報を開示する。「経営を良くする」ことができている企業であれば、金融機関側から「経営者保証を外しませんか?」と言ってくることもあり得ます。
経営者保証・個人保証を外すには、中小企業側にその条件が整っていることが必要です。
「経営者の保証がなくてもこの会社は大丈夫」といった安心感が銀行側にあれば保証を外すことにも応じてもらいやすくなるでしょう。 反対に、債務超過だったり、連続赤字だったり、会社と個人のお金が混合していたり、といった会社は信用してもらえません。そういった場合はいくら保証を外してくれと言ってみても、徒労に終わります。
経営を良くして信用力を高めて気持ち良く経営者保証を外してもらえる、そういった中小企業が多く出現することを願っています。
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このコラムの著者 : 小川弘郎
中小企業診断士 金融機関OB 20年勤務した金融機関在籍時には融資担当や企業改善支援担当を歴任、融資現場における多数の経営支援や事業再生の実践経験を持つ。会計業界に転身後は経営計画に基づく経営サポートを行っている。経営戦略、経営管理、資金繰りが専門。