投稿日:2022年06月14日
更新日:2023年08月24日
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政府系金融機関や民間金融機関によるいわゆるコロナ融資の取扱いが開始されて約2年が経過しました。コロナ融資を利用した際に「元金返済の据置」(ある一定期間が経過するまで借入元金の返済をしなくてOK)を選択された方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?その元金据置についても期限があるため、2022年に入ってからは元金据置期間が終了しコロナ融資の返済がスタートした企業が多くなってきています。
しかしながらまだまだコロナの影響が色濃く残る中で原材料価格の高騰も相まって充分に収益が回復していないという企業もあるでしょう。そのような不透明な状況の中コロナ融資の返済がスタートするということは今までより借入金の返済額が確実に増えるということですから、今後の資金繰りに不安を覚える企業の方も多いのではないでしょうか?
このコラムではそのようなコロナ融資の返済がスタートあるいはこれから始まる方向けにコロナ融資の返済に関する対応方法をお伝えしていきます。
目次
そもそもコロナ融資は大きく分けて2種類あります。
1については2022年9月末までの延長が決定しているため現在でも取り扱いがあります(2022年6月現在)。2については2021年3月にて取り扱いが終了しています。尚、2については「実質無利子」の部分が終了しただけでコロナに関する特別な融資制度は存続しています。
そして返済方法における元金返済据置については、1は元金返済の据置が最大5年まで認められており、2は最大1年又は2年まで認められていました。この元金据置について多くの企業が1年~3年を選択するケースが多かったようです。そしてコロナ融資の利用は2020年3月頃から1年間がピークでした。そのため2022年に入りコロナ融資を利用された方の多くは既に元金据置期間が終了し元金返済が開始している、あるいは間もなくコロナ融資の元金返済が始まるという状況になっているわけです。
コロナ融資の返済が始まると当然ですがその返済を続けていかなければなりません。ましてや、コロナ融資利用前に既に何らかの借入金があった方はその分に加えてコロナ融資の返済を行っていくことが必要です。例えば以下のような例を考えみます。
コロナ融資の元金据置中は月50万円の返済でよかったのですが、元金据置が終わったとたんその倍の月100万円返済していかないといけない状況になるわけです。その為なんの対策もしていない企業はコロナ融資の返済が始まったとたんあっという間に資金不足に陥ってしまう可能性が高いのです。
そのようにならないためにもまずは、
を確認するようにしましょう。
①で今後コロナ融資の返済スタート後の会社全体の返済額を確認したら、次にその返済を自助努力で続けていくことができるかどうかを検討しましょう。そのためにも事前にチェックしておかなければならないことがあります。それは「今の利益額で会社全体の返済額を続けていけるか」がという点です。このチェックは以下の様になっているかで行います。
返済財源(当期利益+減価償却費)>会社全体の返済額
会社全体の返済額が返済財源以下となっていればひとまず安心でしょう。その状態をキープしていけば返済は可能で資金不足に陥る可能性は低いということになります。
一方で返済財源より会社全体の返済額が大きくなってしまっている方は危険信号です。そのままだと返済を充分に行うだけの利益が出ていないためその不足分が手元のキャッシュからどんどんなくなっていくことになります。
危険信号がともってしまう方は以下のことができないか検討し実行するようにしましょう。
1.支出を削減する
収支の改善でもっとも効果が早く表れるのは支出の削減です。ただし、ただ単に支出を削ればいいというわけではありません。下手をすると会社の存続に必要な支出まで削りかねません。あくまでムダな支出をやめるようにしましょう。尚、支出を見直すときのチェックポイントは以下の通りです。
支出を上記3つの区分へ分けてみて、1はやめる、2は削減努力をする、3は維持、がそれぞれ可能か検討し出来るものから実行しましょう。
2.収入を増やす
支出の見直しは短期的な効果はありますが限度があります。支出を削減しても返済可能な利益が確保できないという方は、収入を増やすしかありません。尚、ここでいう収入とはいわゆる粗利額のことで売上のことではありません。いくら売上を上げても粗利がとれなければ会社に残るお金が少ないもしくは無いという状態になるのでそれでは意味がないからです。
収入を増やすには受注単価アップ、原価改善、取引数の増加、などといった様々なことが考えられます。ただいずれも一朝一夕でできるものではありませんので地道な努力が必要です。そのため「収入を増やす」ことは「支出を減らす」ことより効果が表れるまで時間がかかることになります。
以上のような自助努力により「返済財源>返済額」の状態を作りましょう。
自助努力をしてもどうしても「返済財源>返済額」の状態が作れない場合は、返済額を少なくするしかありません。そのための手法の一つに「借換」という手法があります。これは、既存の複数の借入金を一つにまとめることで返済額の軽減を図るという手法です。例えば、
1+2 借入残高13百万円 毎月返済額45万円
という借入があったとしてます。これを1+2でまとめた上で7年返済へ借換します。
借換後:借入残高13百万円 返済期間7年 毎月返済額15万円
というように借換前と借換後では実に返済額が30万円も少なくなります。返済額を軽減したい場合はまずはこの「借換」ができないか取引銀行へ相談すると良いでしょう。ただし、以下の点について要注意です。
いずれにしろ借換には銀行の協力が必要です。借換を検討する場合はまずは銀行へ相談するようにしましょう。
自助努力や借換によってもそれでも返済していくめどが立たなければ、返済のリスケジュール(以下、リスケ)を銀行へ依頼していかざるを得ません。リスケとは返済条件の変更のことをいい、主に以下のものをいいます。
いずれにしろ、当初借りた時に銀行と約束した返済方法を変更してほしいという依頼をすることになります。リスケについては2009年の中小企業金融円滑化法施行(2013年終了)以降は金融業界では一般化され、金融庁からもリスケに関しては度々各金融機関へ柔軟な対応を求める通知が発出されています。更にはコロナ下においては金融庁や経済産業省から各金融機関へ返済の条件変更について柔軟に対応するよう改めて通知を発出しています。
その為、リスケはコロナが始まってから行われるようになったものではなく、以前から取り扱いのあったものであり、コロナ下においては改めて国から銀行へ柔軟な対応指示が出ていることから、銀行へリスケを申込して断られる可能性は低いです。
ただし以下の点に注意してください。
①と②については必ずしも要求されるわけではなくケースバイケースですが銀行側としてはリスケを受ける以上、企業側には経営改善に向けた努力とその実施状況の報告を求めるということになります。
③については100%新規の融資が受けられないわけではありませんが、既存借入のリスケを受けているのに新規の融資をどう返済していくのかという根拠を示すのが非常に困難なため、リスケ期間中は事実上新規融資に応じてもらえるケースはレアです。
尚、リスケは一度利用してしまうとなかなかその状況から脱出できる企業が少ないのが実情です。又、銀行管理が厳しくなる可能性も高いため、リスケは「諸刃の剣」と考えてその利用は慎重に検討するようにしましょう。
自助努力にしろ借換にしろリスケにしろ収益力を改善して返済が充分に行えることが求められます。また銀行へ返済に関する支援依頼する場合は経営改善計画や事業再建計画の策定、計画策定後のモニタリング(計画実施状況報告)を要求してくるケースがあります。これらのことを自社単独で行っていくはなかなか難しいという企業も多いでしょう。時には外部の専門家の支援を受けてこれらの対応をしていくことも求められます。
そこで国は2022年3月に「中小企業活性化パッケージ」を策定・公表し、事業者のフェーズ(収益力改善フェーズ・事業再生フェーズ・再チャレンジフェーズ)に応じたきめ細やかな支援を措置するとともに、収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援する支援体制を構築しました。
自社の状況(フェーズ)に応じて支援策を利用するのも一手です。尚、「中小企業活性化パッケージ」の主な内容は以下の通りです。
以上、コロナ融資の返済がスタートした後の対応策についてお伝えしてきました。コロナや材料価格高騰など外部環境の影響を色濃く受けている企業もあろうかと思います。ただ、返済は待ってくれませんので返済ができて事業も続けられる状況を作っていくしかありません。今回お伝えした内容はあくまでの一例ですが、収益改善や銀行へのリスケ交渉、経営改善計画策定、などといったことはある程度の専門性も必要であるため自社単独で行うのは難しいかもしれません。
その場合は税理士や中小企業診断士といった経営や資金の専門家に相談して支援を受けることをお勧めします。また中小企業活性化パッケージを始めとした国の施策を使いたい場合も同様です。外部支援機関の力を上手に使いながら返済が行える収益力を身に着け、「コロナ融資の返済がスタートしても問題無し」といえる体制を早期に整えましょう。
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担保処分や財産差押などが行われる可能性があります。どうしても返済できない場合には早めに金融機関へ相談しましょう。
対応してもらえるまでには数週間から1ヶ月程度かかります。
そのため直近の返済は通常通りに行わなければならないものと理解しておきましょう。
融資契約の際に固定金利の契約を交わしていれば原則として返済終了まで金利が変わることはありません。変動金利であったり特約がある場合は返済途中で金利が変わる可能性があります。
このコラムの著者 : 小川弘郎
中小企業診断士 金融機関OB 20年勤務した金融機関在籍時には融資担当や企業改善支援担当を歴任、融資現場における多数の経営支援や事業再生の実践経験を持つ。会計業界に転身後は経営計画に基づく経営サポートを行っている。経営戦略、経営管理、資金繰りが専門。