投稿日:2022年05月13日
更新日:2023年06月09日
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起業・開業・スタートアップといったこれから事業を始めるぞ、という方でお悩みになることの一つに「資金調達」があります。事業を新たに始めるときに必ず「お金」が必要です。そのお金を準備しておくことが「資金調達」です。お金がなければ事業を始めることができませんので、事業開始のために必要なお金を充分用意するということはとても重要なことです。
本コラムでは10年以上融資担当を行ってきた元銀行員が起業時に必要な資金調達の方法を解説していきます。
目次
事業に必要なお金を用意すること、それが「資金調達」です。そして開業時に一番苦労されることが「資金調達」です。日本政策金融公庫2020年度新規開業実態調査によると、開業時に苦労したことの第1位は「資金繰り・資金調達」(55.0%)となっています。お金が無くては事業を続けるどころか始めることもできません。必要なお金を全て自分で用意できれば問題ないのですが大半の方はそうではないため、開業時に一番苦労されることが多いです。そのため、どこからどのようにお金を用意するのかが極めて重要になってきます。
法人が銀行借入・融資を成功させるための必要書類と流れを金融機関OBが解説しますなぜ資金調達が必要になるのかというと事業を始めると必ずお金が出ていくからです。では起業するときにどれぐらいお金が出ていくのでしょうか?起業するためには、起業するための費用(開業費用)、と起業してから事業が軌道にのるまでの費用(開業後費用)、を見越しておかなければなりません。開業費用が用意できなければ起業できませんし、開業後費用が用意できなければお金が尽きてしまい倒産してしまいます。
ではこの開業費用と開業後費用はどれぐらい必要なのでしょうか?これは起業の仕方によります。自宅でパソコン一つで始められる事業もあれば、店舗を構えて始める必要がある事業もあります。ですので起業時に必要となる費用は事業によりますので一概に言えません。ただ、前述の2020年度新規開業実態調査が参考になります。同調査によれば、開業費用は「500万円未満」の割合が43.7%と最も高く、次いで「500万~1,000万円未満」が27.3%となっています。開業費用の平均値は989万円となっていますから、概ね数百万円~1000万円ぐらいは必要となるケースが多いようです。一方で同調査では資金調達の平均が1,194万円であったとしています。あれ、開業費用の平均より資金調達額の平均の方が200万円ほど多いですね。これは、開業後の事業が軌道になるまでの資金も調達していることを示しています。
起業費用の例
機械・設備購入、店舗敷金・保証金、備品・消耗品、チラシ作成、HP作成、などが考えられます。まとまったお金が必要になることが多いので、購入予定先から見積もりを取るなどしていくら必要となるのかはっきりさせておきましょう。
起業後費用の例
材料費、外注費、人件費、賃借料、水道光熱費、交際費、旅費交通費、通信費、税金などなどです。これらが毎月いくら発生してくるのかを見通しておく必要があります。それにより用意しておかなければならない金額が違ってきます。
大事なことは開業するまでに開業費用と開業後費用がなにでいくらかかるのかということをキチンと算段しておくことです。その上で十分な資金調達をしておかないと開業後すぐにお金が尽きてしまう=資金ショートという事態を招いてしまいます。特に開業後費用を見越しておくことは重要です。開業してから思った通りに収入が上がっていくケースはまれですので、予定よりもうまくいかない場合にいくら必要となるのしっかり見通しを立てておきましょう。
毎月売上100万円、経費が70万円、利益30万円の見込みで張り切って事業開始したが、実際には売上が1か月目30万円、2か月目40万円、3か月目50万円だった、というようなケースです。毎月かかる経費が70万円で一定だと仮定すると初月から40万円、30万円、20万円、の赤字となりますね。開業後費用を100万円用意していたとしても3か月目でほぼ使い切ってしまうことになります。これは開業あるあるの一つです。最初からうまくいくことはレアですので、半年程度は赤字と覚悟して開業後費用を用意するようにしましょう。
現場を回すのが意外と大変で予定外で人を雇った、安く購入するために材料を一括購入した、そもそも税金などの支出を見込んでいなかった、といったケースです。事業はやってみて初めてわかることも多く、そのため開業前に想定していなかった出費が発生してしまうものです。そのため用意した開業費用を使い切ってしまい資金が続かなることもあります。開業前に支出の想定は綿密に行いましょう。
資金調達を融資で賄った場合、必ず返済が始まります。この返済は売上から経費を引いた利益から行うことになります。そのため利益が出ている=黒字でも、返済額に満たない利益が続くと用意した資金を食いつぶしていくことになります。これが続くといつか資金が足りなくなり、黒字なのに倒産するいわゆる「黒字倒産」になってしまいます。黒字を出すことは当然ですが、融資を受けるときに無理のない返済額にしましょう。
決算書が教えてくれる理想の資金調達の方法起業時の資金調達の手段は2択です。自分で用意する、借りる、のいずれかです。借りるには銀行だけでなく、家族親戚友人から借りることもあると思います。前述の2020年度新規開業実態調査では、資金の調達先は「金融機関等からの借入」が平均825万円(平均調達額に占める割合は69.1%)となっており、圧倒的に銀行から借りることが多いようです。ここからは主だった起業時の銀行融資の方法を見ていきたいと思います。
日本政策金融公庫は国が出資をしている政府系の金融機関です。民間金融機関ではカバーしにくい部分を補完していくセーフィティネット機能をもった公的金融機関と言えます。そのため以前から民間金融機関が扱いにくい創業融資に力をいれており、新規開業資金などの創業専用の融資制度を手厚く設けています。民間金融機関に比べると比較的審査も通りやすいようです。まずは公庫に相談をしてみると良いでしょう。
民間金融機関でも創業融資制度を設けていますが、大半は信用保証協会付融資となります。信用保証協会とは各都道府県単位に設置されており、中小企業・小規模事業者が民間金融機関から事業資金の融資を受ける際、その保証人となり借入をスムーズにする公的機関です。信用保証協会の保証が付いていれば、事業者が返済できなくなったとしても信用保証協会が代わりに返済してくれるので、金融機関は信用保証協会付融資であれば安心して融資ができます。この信用保証協会付融資にも創業用資金の制度を設けています。また、創業時は既に事業を行っている方と比べて信用力が足りないため、民間金融機関は創業資金については信用保証協会付融資を使うことがほとんどです。
プロパー融資は信用保証協会付ではない、金融機関独自の融資のことです。各金融機関もほとんどの場合創業専用の融資制度を設けています。ただ、公庫融資や信用保証協会付融資を比べて審査ハードルは高めです。内容は金融機関毎に異なりますので、起業後に利用したいと考えている金融機関のHPなどでチェックしてみましょう。
起業時においては公的機関が起業資金の資金調達を融資で賄いたい場合は、まずは公庫融資の申込することをお勧めします。公庫融資で十分な資金調達が得られそうにない場合民間金融機関にて信用保証協会付融資を、それでもだめならプロパー融資を依頼するという順番がベターでしょう。一般的には公的機関が行っている融資の方が比較的借りやすいためです。
起業時の資金調達においては、まず何でいついくら必要かを算段しておくことが重要です。それがわかった上で必要な額を用意するようにしましょう。開業後お金が足りなくなって資金ショートしてしまっては元も子もありません。資金調達先は銀行借入が最もオーソドックスです。事前に金融機関へしっかり相談をして必要額を調達できるようにしましょう。
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このコラムの著者 : 小川弘郎
中小企業診断士 金融機関OB 20年勤務した金融機関在籍時には融資担当や企業改善支援担当を歴任、融資現場における多数の経営支援や事業再生の実践経験を持つ。会計業界に転身後は経営計画に基づく経営サポートを行っている。経営戦略、経営管理、資金繰りが専門。