投稿日:2023年07月18日
更新日:2023年07月19日
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相続税対策として生命保険の利用を検討している人もいるかもしれません。では、生命保険はどれくらい相続税の節税効果があるのでしょうか?
本記事では、生命保険の死亡保険金にかかる相続税の計算方法をわかりやすく解説します。ケースごとに具体的にかかる相続税のシミュレーションもするので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
生命保険の死亡保険金は、契約内容によって相続税、贈与税、所得税のいずれかが発生します。どの税金が発生するかは、生命保険の保険料負担者や保険金受取人の設定の仕方によって異なる仕組みです。それぞれの税金が発生するケースを紹介します。
生命保険の保険料を被相続人(死亡した人)が負担していて、被保険者も被相続人の場合は受け取った死亡保険金に対して相続税が発生します。
例えば、夫を被保険者とした生命保険の保険料を夫自らが支払っていて、保険金受取人を子に設定しているようなケースです。この場合、夫が死亡して子が死亡保険金を受け取れば、子に相続税の支払い義務が生じます。
生命保険の被保険者と保険料負担者、保険金受取人がすべて違う人の場合、受け取った死亡保険金に対して贈与税が発生します。
例えば、夫を被保険者とした生命保険の保険料を妻が負担していて、保険金受取人が子となっている契約などです。この場合、夫の死亡により保険金を受け取った子は贈与税の支払いが必要となります。
生命保険の保険料負担者と保険金受取人が同じで、被保険者のみ違う場合は所得税の支払いが必要です。
例えば、夫を被保険者とした生命保険の保険料を妻が負担していて、死亡保険金の受取人も妻となる契約が該当します。この場合、夫の死亡により保険金を受け取った妻は所得税の支払いが必要です。
生命保険の契約の仕方で発生する税金は異なるため、契約時にかならず何の税金がかかるのかを確認しましょう。
過度な不動産節税はもうできない?2022年4月19日相続税評価の判例(最高裁の決定)死亡保険金の受取により相続税が発生する場合、一定額までが非課税となります。相続税の非課税枠を解説します。
生命保険の死亡保険金は、法定相続人の人数に応じて一定額が非課税となります。非課税となる金額の計算式は以下のとおりです。
生命保険の非課税枠=500万円×法定相続人の数
例えば、夫が死亡した際の法定相続人が妻と子1人の合計2人の場合は1000万円(500万円×2人)までが非課税となります。受け取る死亡保険金が1,000万円以下であれば、相続税はかかりません。また、受け取る死亡保険金が3,000万円の場合は、2,000万円(3,000万円―1,000万円)が相続税の課税対象となります。
生命保険の契約時には、法定相続人の人数をあらかじめ把握していくらまで非課税となるかをシミュレーションしておきましょう。
相続税は、生命保険の死亡保険金にかかわらず、すべての遺産に対して基礎控除が適用されます。生命保険の死亡保険金(非課税枠を控除後の金額)や預金、不動産、株式などのすべての遺産相続の合計額から基礎控除額を差し引く仕組みです。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、夫が死亡した際の法定相続人が妻と子1人の合計2人の場合は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)までが非課税となります。そのため、夫の遺産の合計額(非課税枠を控除した後の死亡保険金や預金、株式、不動産などの合計額)が4200万円以下の場合は相続税がかかりません。遺産の合計額が1億円の場合、課税対象となる遺産額は5,800万円(1億円―4,200万円)です。
生命保険の死亡保険金は、預金や株式、不動産などのほかの遺産と合算して相続税を計算します。そのため、生命保険の死亡保険金にかかる相続税のみの算出はできません。
他の遺産がいくらあるのか、法定相続人は何人なのか、死亡保険金の受取人は誰なのかなどによって、発生する相続税の金額が異なることを覚えておきましょう。
相続時に確定申告が必要になるケースとは?死亡保険金などの遺産に対して発生する相続税を計算するためのステップを解説します。
まずは、死亡保険金の非課税額を計算しましょう。死亡保険金の非課税額の計算式は以下のとおりです。
死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
法定相続人の数ごとの死亡保険金非課税枠の早見表は以下のとおりとなります。
法定相続人 | 死亡保険金の非課税枠 |
---|---|
1人 | 500万円 |
2人 | 1,000万円 |
3人 | 1,500万円 |
4人 | 2,000万円 |
5人 | 2,500万円 |
死亡保険金の非課税額を計算したら、実際に受け取る死亡保険金から非課税額を差し引きます。死亡保険金が3,000万円で法定相続人が2人(非課税額1,000万円)の場合、課税対象となる死亡保険金は2,000万円(3,000万円―1,000万円)です。
死亡保険金の非課税額を算出したら、次に遺産の合計額を計算します。死亡保険金(非課税額を控除後の金額)や預金、株式、不動産などの遺産の合計額を出しましょう。
ただし、以下のような遺産は相続税の課税対象となりません。
上記の遺産を除いた合計額を算出してください。例えば、死亡保険金2,000万円(非課税額を控除後の金額)、預金3,000万円、株式3,500万円を保有する人が死亡した場合、遺産総額は8,500万円(2,000万円+3,000万円+3,500万円)です。
遺産総額を算出したら、そこから基礎控除を差し引きましょう。基礎控除の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数ごとの、基礎控除額早見表は以下のとおりとなります。
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
例えば、遺産総額が8,400万円で法定相続人が3人(基礎控除額4,800万円)の場合、基礎控除を差し引いたあとの金額は3,600万円(8,400万円―4800万円)です。3,600万円に対して、相続税が課税されます。
相続税の課税対象となる金額を算出したら、遺産額をわけましょう。
法定相続分とは、法律によって定められた相続割合です。法定相続人によって按分割合が決められています。法定相続人ごとの按分割合早見表は以下のとおりです。
法定相続人 | 按分割合 |
---|---|
配偶者、子1人 | 配偶者1/2、子1/2 |
配偶者、子2人 | 配偶者2/1、子1人目1/4、子2人目1/4 |
配偶者、親1人 | 配偶者2/3、親1/3 |
配偶者、親2人 | 配偶者2/3、父1/6、母1/6 |
配偶者、兄弟姉妹1人 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
配偶者、兄弟姉妹2人 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1人目1/8、兄弟姉妹2人目1/8 |
子2人 | 子1人目1/2、子2人目1/2 |
子3人 | 子1人目1/3、子2人目1/3、子3人目1/3 |
親2人 | 父1/2、母1/2 |
兄弟姉妹2人 | 兄弟姉妹1人目1/2、兄弟姉妹2人目1/2 |
兄弟姉妹3人 | 兄弟姉妹1人目1/3、兄弟姉妹2人目1/3、兄弟姉妹3人目1/3 |
例えば、課税対象となる遺産総額が3600万円で、法定相続人が配偶者と子2人の場合、それぞれの法定相続分に応じた取得金額は以下のように按分します。
配偶者 :3600万円×1/2=1800万円
子1人目:3600万円×1/4=900万円
子2人目:3600万円×1/4=900万円
法定相続分に応じた取得金額を求めたら、相続税の総額を計算します。以下の相続税率表にしたがって、それぞれの相続税を求めましょう。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | ― |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
配偶者の取得金額が1800万円、子二人の取得金額がそれぞれ900万円の場合、それぞれの相続税は以下のように計算します。
配偶者 :1800万円×15%―50万円=220万円
子1人目:900万円×10%=90万円
子2人目:900万円×10%=90万円
各相続人の相続税を足した総額は、400万円(220万円+90万円+90万円)です。
相続税の合計額を、実際の相続割合に応じて分けます。例えば、相続税の合計額が400万円で相続割合が配偶者1/2、子1人目1/4、子2人目1/4の場合、それぞれの相続税は以下のとおりとなります。
配偶者 :400万円×1/2=200万円
子1人目:400万円×1/4=100万円
子2人目:400万円×1/4=100万円
最後に、相続人ごとの税額控除を適用しましょう。配偶者であれば「配偶者控除」の適用が可能です。実際に取得した遺産額のうち。1億6000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い額までが非課税となります。
ほかにも、未成年者控除や障害者控除、相次相続控除などがあるため、税額控除を適用できないか確認してみてください。各税額控除の詳細は、税理士へ相談してみてください。
税額控除を適用したら、相続税額の計算が完了です。期日までに相続税の申告と支払い手続きをおこないましょう。
実際に、死亡保険金などの遺産総額にかかる相続税額をシミュレーションしましょう。
遺産が死亡保険金1000万円(相続税の課税対象)、預貯金3,000万円、法定相続人が子ども1人の場合でシミュレーションします。
死亡保険金の非課税枠は500万円(500万円×法定相続人1人)のため、死亡保険金の課税対象金額は500万円(1000万円―500万円)です。預貯金3000万円と合わせると、課税対象となる遺産総額は3500万円(500万円+3000万円)になります。
次に、基礎控除を差し引きましょう。基礎控除額は3600万円(3000万円+600万円×法定相続人1人)です。課税対象となる遺産総額3500万円から基礎控除3600万円を差し引くと、金額はマイナスになります。
そのため、このシミュレーションにおいて、相続税は発生しません。法定相続人である子は、相続税を納めずに遺産を相続できます。
次に、遺産が生命保険の死亡保険金(相続税の課税対象)2000万円、預貯金4000万円、法定相続人が配偶者と子1人の合計2人の場合でシミュレーションしましょう。
死亡保険金の非課税枠は1000万円(500万円×法定相続人2人)のため、死亡保険金の課税対象金額は1000万円(2000万円―1000万円)です。預貯金4000万円と合わせると、課税対象となる遺産総額は5000万円(1000万円+4000万円)になります。
次に、基礎控除を差し引きましょう。基礎控除額は4200万円(3000万円+600万円×法定相続人2人)です。課税対象となる遺産総額5000万円から基礎控除4200万円を差し引いた金額は800万円となります。
800万円を法定相続分にしたがって、按分しましょう。配偶者と子それぞれの取得金額は以下のとおりです。
配偶者 :800万円×1/2=400万円
子 :800万円×1/2=400万円
相続税率表にしたがって、以下のとおりそれぞれの相続税額を求めます。
配偶者 :400万円×10%=40万円
子 :400万円×10%=40万円
相続税額の合計は、80万円(40万円+40万円)です。80万円を取得割合に応じて分けます。
配偶者 :80万円×(400万円/800万円)=40万円
子 :80万円×(400万円/800万円)=40万円
最後に、相続人ごとの税額控除を適用します。配偶者控除の適用により、配偶者が納める相続税は0円です。よって、最終的な相続人ごとの相続税は以下のとおりになります。
配偶者 :0円
子 :40万円
子は、40万円の相続税の支払いが必要です。
最後に、遺産が生命保険の死亡保険金(相続税の対象)3000万円、預貯金7000万円、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合でシミュレーションしましょう。
死亡保険金の非課税枠は1500万円(500万円×法定相続人3人)のため、死亡保険金の課税対象金額は1500万円(3000万円―1500万円)です。預貯金7000万円と合わせると、課税対象となる遺産総額は8500万円(1500万円+7000万円)になります。
遺産総額を求めたら、基礎控除を差し引きましょう。基礎控除額は4800万円(3000万円+600万円×法定相続人3人)です。課税対象となる遺産総額8500万円から基礎控除4800万円を差し引いた金額は3700万円となります。
3700万円を法定相続分にしたがって、按分しましょう。配偶者と子それぞれの取得金額は以下のとおりです。
配偶者 :3700万円×1/2=1850万円
子1人目:3700万円×1/4=925万円
子2人目:3700万円×1/4=925万円
相続税率表にしたがって、以下のとおりそれぞれの相続税額を求めます。
配偶者 :1850万円×15%-50万円=227万5000円
子1人目:925万円×10%=92万5000円
子2人目:925万円×10%=92万5000円
相続税額の合計は、412万5000円です。412万5000円を取得割合に応じて分けます。
配偶者 :412万5000円×(1850万円/3700万円)=206万2500円
子1人目:412万5000円×(925万円/3700万円)=103万1250円
子2人目:412万5000円×(925万円/3700万円)=103万1250円
最後に、相続人ごとの税額控除を適用します。配偶者控除の適用により、配偶者が納める相続税は0円です。よって、最終的な相続人ごとの相続税は以下のとおりとなります。
配偶者 :0円
子1人目:103万1250円
子2人目:103万1250円
子2人は、それぞれ103万1250円の相続税の支払いが必要です。
相続時に確定申告が必要になるケースとは?生命保険の死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」が非課税となるため、相続税対策に有効です。ただし、生命保険を使った相続税対策をする際に気を付けるべきこともあります。生命保険で相続税対策をする際の注意点を解説します。
生命保険で相続税対策をする際には、生命保険の契約者(保険料負担者)と保険金受取人に注意しましょう。
死亡保険金のうち一定額が非課税となるのは、死亡保険金に相続税が発生する場合のみです。ただし、生命保険の契約方法によっては贈与税や所得税が発生する場合もあります。
被保険者と契約者(保険料負担者)が同一の場合、相続税の課税対象となります。被保険者と契約者が異なる契約は、所得税や贈与税の課税対象となります。非課税枠を利用した相続税対策として生命保険を契約する場合は、被保険者と契約者が同一となるように注意してください。
相続税対策として生命保険を利用する場合は、終身型の生命保険を契約しましょう。生命保険には、終身型と定期型があります。定期型は保険期間が限定されるため、保険期間終了後に死亡した場合、死亡保険金を受け取れません。
終身型であれば被保険者が死亡するまで保険期間が続くため、確実に死亡保険金を受け取れます。そのため、相続税対策には終身型の生命保険がおすすめです。
相続税の配偶者控除を意識して、生命保険の死亡保険金受取人を設定しましょう。相続では配偶者控除により、配偶者が受け取る遺産のうち1億6000万円までは税金がかかりません。わざわざ生命保険の死亡保険金で配偶者へ相続をしなくても、配偶者は相続税がかからないことが多くあります。
そのため、生命保険の死亡保険金受取人は子に設定することがおすすめです。子は配偶者控除などの税額控除が原則適用されないため、生命保険の非課税枠の恩恵を受けられる可能性が高いでしょう。
生命保険の死亡保険金受取人は、配偶者控除があることを意識して設定してください。
相続税の相談は、税理士におこないましょう。相続税は、生前にどのような対策をするかで納める金額が大きく変わってきます。
税額控除などの制度は申請しなくては利用できないため、制度を知っているか知っていないかだけで相続税の金額は異なるでしょう。ただし、税金の制度は日々改定されるため、自分ですべてを把握するのは難しいです。
税理士に依頼すれば、最新の税制を理解した税金のプロができるだけ相続税を節税できるようサポートしてくれます。また、申告の依頼を税理士にすれば相続税の確実な申告が可能です。
相続税を誤って申告すると、税務調査を受け過少申告加算税や延滞税などのペナルティを課されることもあります。そのため、できるだけ相続税を節税したい人や確実な申告をおこないたい人は税理士への依頼を検討してみてください。
また、税金の個別具体的な相談ができるのは税理士のみです。これは、税理士法によって定められています。そのため、第三者に税金の相談をする際はかならず税理士へ相談するようにしてください。
遺産に相続税はかかる?非課税枠の計算方法や非課税対策として使える制度を紹介!生命保険をうまく使えば、相続税対策が可能です。特に、遺産額が高額な人ほど死亡保険金を利用した相続税の節税効果は大きくなります。
ただし、生命保険を使った相続税対策は注意すべき点も多いです。契約者や被保険者の設定を間違うと、相続税対策がうまくできません。また、税額控除などの各種制度も理解したうえでの生命保険の契約が必要です。
さらに、相続税対策は生前贈与や不動産を利用した対策など、生命保険以外の相続税対策の種類もさまざまあります。これらをすべて考慮したうえで相続税対策をおこなうのは、一般的に難しいでしょう。
そのため、相続税の相談は、税金のプロである税理士へおこなうことをおすすめします。生前の相続税対策や相続発生時の申告などを税理士がサポート、代行してくれます。
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このコラムの著者 : 岡本 英樹
大学卒業以来、銀行業務・税理士業務と、一貫して中小企業の経営と相続の事案と向き合う。 モットーはどんな相談にも「相談してくださる方の想いに真摯に向き合うこと」。 「他の意見を聞いてみたい」「他にはできない相談をしたい」など、身近な問題から難題まで何でもご相談ください。