投稿日:2020年06月28日
更新日:2023年03月17日
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破産弁護士から見た破産会社の特徴を見ていきたいと思います。
目次
私はかつて破産専門弁護士として、業務時間の殆どを破産申立業務に当てていた時期がありました。破産専門弁護士のことをサンドイッチ弁護士と呼びます。『挟んで(破産で)食べている。』というシャレですが、私が弁護士になった平成14年頃は、破産事件が急増していた時期でした。私もサンドイッチ弁護士として沢山の破産事件を担当しました。
破産弁護士に相談するタイミング当時の私は法律の勉強はしていましたが、決算書なんて全く読めず、貸借対照表や損益計算書の勘定科目すらおぼつかなかったです。
それでも破産申立の際には裁判所へ報告書を提出しなければならなかったため、決算書の読み方が書いてある本を沢山読んで、過去の決算書を見ながら破産に至った経緯について報告書を作成していました。
弁護士になりたての私には、ある思い込みがありました。
「会社の経営者は全員が決算書を読めるはずだ」という思い込みです。
私は経営などやったこともないし、勉強したこともありませんでしたが、数字が読めないのに経営なんてできるはずがないと、純粋に思っていたからです。
経営者はみんな決算書が読めるのに、弁護士の私が決算書を読めないと恥ずかしいし、会社を理解できるわけもない。そう思って必死に勉強したのを覚えています。
ついでに言うと、どこの会社にも経営理念と事業計画があると思っていました。
また、税理士は全員が会社経営のアドバイスができると思い込んでいました。
決算書を作る専門家なので、当然のように経営を理解し、当たり前のように経営の助言をしているだろうと。
それが単なる都市伝説であることは、法人の破産申立を何件かやっている中ですぐにわかりました。
破産会社には3つの特徴があります。弁護士になりたての私が、どこの会社にもあって当たり前だと思っていたのに「なかったもの」です。
破産会社の経営者は、経営理念や経営目的など考えたこともない人ばかりでした。
どんぶり勘定で計画性は皆無という会社です。
たとえ顧問税理士がついていて決算書があっても、経営者がそれを理解できなければ、そもそも決算書がないに等しいです。
こんな経営をしているから会社を潰してしまうのではないか、と真剣にそう思いました。
しかし数年後には、破産した会社だけでなく多くの中小企業にも同じ共通点が当てはまることに気づきました。創業して10年以内に廃業倒産する会社が多いのはそのためではないかと考えています。
保証金は所得になる?仮想通貨NEMの不正送金に係る補償金について専門家が解説破産会社の社長は決算書が読めません。読めないので勘で行動します。勘が冴えているときは業績が向上しますが、勘が鈍ってくると業績がぐんぐん下がります。
決算書を読めなくても税理士に任せているので大丈夫だ、と思っていた人も多いです。ところが破産することになると、税理士に対する不満を多く口にします。他人の所為にしてしまうのです。
また銀行に対する不満も口にします。「見捨てやがった」とか、「良い時はちやほやしやがって、あかんようになったら冷たくなった」等と言います。これも他人の所為にしているのです。
破産申立に至るまでに一家が離散状態になった方も沢山います。
収入がある時は、愛人を作ったり散財したりして気前が良いのですが、経営がうまくいかなくなると、夫婦喧嘩が絶えなくなり、離婚や別居状態になるケースが多かったです。
また子供からもそっぽを向かれ、天涯孤独の状態で破産に至る社長さんもおられました。
私はどうも破産事件が好きになれませんでした。独りよがりで、うまくいっていたときは数億円を稼いで散財し、悪くなって倒産すると他人の所為にする人が多いと思ったからです。
そんな破産会社の社長さんを救うため、弁護士として何をしていったか。
私が弁護士になった平成14年の自殺者は3万5000人ほどであったと記憶しておりますが、日本は平成10年頃から14年間もの間、常に年間の自殺者が3万人を超えていました。
最近でも2万5000人ぐらいの方が一年間に自殺で亡くなっています。
年間3万人の方が自殺し、それが14年間続いたということは、合計42万人の方がお亡くなりになったのです。
私の出身である大阪府の豊中市の人口は約40万人程です。たった14年で、豊中市の総人口以上の方が自殺で亡くなる計算になります。
自殺の原因の1位は病気だそうですが、2位は事業不振です。
事業不振や倒産でご相談に来られる方の多くは、精神的に追い詰められて鬱やノイローゼの状態になっています。破産会社の経営者の多くは何度か自殺を考えたことがあるとおっしゃいます。
破産と聞くとこの世の終わりと考える方も多く、離婚しなければならないとか、負債が子供にも及ぶとか、選挙権がなくなるとか、全く根拠のない噂に囚われて、とにかく破産を避けようとします。
目先の支払手形のジャンプのために、無理してノンバンクのカードローンやサラ金から借り入れ、さらにどんどん深みにはまり、不動産担保ローン、商工ローン、最後には闇金融業者から金を借りて、激しく追い込みをかけられた末に、自殺しかないと考える経営者も多くいらっしゃいました。
実は破産手続きを経て免責されれば、負債はゼロとなり、法律上のペナルティも殆どありません。弁護士免許や税理士免許がなくなるなどの不利益がある人もありますが、殆どの経営者には無関係です。相談に来られて破産について良く知ると、もっと早めに来たら良かったという経営者が多数です。
人は不安なものを避けて行動する傾向にあります。不安があれば、それを深堀して不安の正体を明確にすることで、意外と大したことではないのに気づきます。餅は餅屋という言葉がありますが、早めに専門家に相談して不安の中身を明確にし、その中身を良く知ることが大切だと思いました。
破産は、『破って産まれる(やぶってうまれる)。』と書きます。
借金のない綺麗な状態に生まれ変わることができ、再出発が可能となるありがたい制度なのです。
私は相談を受けたとき破産企業の社長さんに対して、「免責後はどうしますか」「これからは何をして稼ぎますか?」「ご迷惑をかけたご家族を、残された人生でどうやって幸せにしますか?」とお聞きます。
社長さんは「今日は破産の相談に来たので、まだそこまで考えていません。」とか言いますが、何度も同じ質問をぶつけると、妻にもう一度家を買ってやりたいとか、楽をさせてやりたいとかおっしゃいます。付き添いに来ていた奥さんも、旦那さんの話を聴いて涙を流される人もいます。
破産を決意する日は再出発を決意する日だと思います。未来に希望を持ち、家族を幸せにするという目的を持つことで、既に破産に対する不安は消え去っています。
破産後の人生に希望を持ってもらうことで、あまり好きでなかった破産事件に私もやりがいを感じるようになったのを覚えています。
破産弁護士は、過去の2~3期分の決算書を見て、どのように破産するに至ったのかについて経過を把握してから裁判所に報告します。
その際に私が感じたことは、どれも判をついたように同じような決算書だということです。
決算書の貸借対照表の左側は、上から現金、預金、受取手形、売掛金等の順に資産が並んでいます。
破産前の3期分を比べてみれば、キャッシュ即ち現預金残高が減少していることがわかります。
決算書は別に特別な知識がなくても読めるのです。沢山の決算書の解説本を読みましたが、情報量が多いだけであまり役に立ちません。
決算書は必要なところだけ読むことができれば良いのです。
3期分の現預金残高を比べると、残金の何パーセントが減少しているのかがわかります。
25%ずつ減少していれば、4年でキャッシュがゼロになり、支払不能となって倒産ということになります。
35%ずつ減少していれば、理論的に3年以内に倒産します。
決算書には勘定科目内訳書が添付されており、売掛金の内訳や相手方取引先名などが書いてあります。
中小企業の多くが、特定の取引先が全体の取引額の10%以上~50%を占めています。
仮に取引全体の10%を占める取引先に貸倒れが生じた場合、利益はどうなるでしょうか?(売上に対する経常利益が10%である会社を想定します。)
その大切な取引先からの売掛金が入ってこなくても、売上金額も経常利益もそのままで、税金も支払う必要が出てきます。
しかしその取引先の売上のお金は入っていないのに仕入や外注先へは支払うわけですから、キャッシュはマイナスになります。
何が言いたいのかというと、売掛金が一つの取引先に集中しないようにリスク管理をしている破産会社は殆どないということです。
過去に多額の貸倒損失があったり、直近に貸倒れがあったりすると、それが現預金残の減少に大きく影響しています。
中小企業に貸倒れはつきものでしょうか?そんなわけありません。
取引先が倒産したのでしょうがないと諦める経営者がいます。
また弁護士に依頼しても回収できなかったことを恨んでいる方も多くいらっしゃいます。
しかし回収可能であるかどうかは、実は取引の前の段階から決まっていることが多い。
毎年きっちりと信用調査を行ったり、取引先と決算書を交換したりしていれば、ある程度の危険性は事前に察知できたはずです。
ところが決算書が読めなければ、相手と決算書を交換しても相手の資産状況を理解できず、その危険性の判断もできません。
中小企業が生き残るためには、連鎖倒産を防止することが何よりも重要です。
決算書を見て危険性を判断できるようになれば、貸倒れは未然に防止できると思います。
貸借対照表の右下には「純資産の部」があり、設立当初の出資額や利益剰余金が記載されています。
貸借対照表は、創業から決算期までのすべての会社の成績が一覧で分かります。
また利益剰余金を創業期からの期数で割ると、創業期以来、平均していくらの利益を出してきたのかもわかります。
あるAという会社の創業以来の平均的な純利益は700万円です。毎年1,000万円ぐらいの経常利益を出して、300万円程度の税金を支払っていることが分かります。一方Bという会社の平均利益は70万円です。こちらは毎年100万円ぐらいの利益しか出さず、税金も毎年30万円ぐらいしか支払っていません。
破産する会社の決算書は、もちろんBに近い決算書です。
なるべく税金を出さないように、あえて無駄な機械や高級外車を購入したり、リゾートホテルの会員になったりすることで、不要なお金を沢山使ってしまいます。
また税理士に節税をお願いし、税理士もそれに協力して沢山のアドバイスをします。自ら保険を販売したり、投資物件の仲介をしたり、不動産業者を紹介して賃貸物件を建築させたりして、キャッシュバックを稼ぐ税理士も沢山います。
節税は、色々なものを会社に売るときの殺し文句になります。特に決算書が読めない経営者は、節税といわれるとすぐに飛びつきます。
節税がすべて悪いわけではありませんが、決算書が読めない近視眼的な経営者は節税が大好きだという特徴があるように思います。
節税の影響で、純利益も少なく、結果として現預金残高が少ない傾向があります。
安定した経営に必要な比率である当座比率も自己資本比率も低い会社が多いです。
破産の要件は支払不能です。現預金残高が少ないと、何かあれば支払不能に陥りやすくなります。
潰れない会社は、キャッシュが潤沢にあるから潰れないのです。
キャッシュを潤沢にするには、税金を支払う必要があります。税金を支払うことに無駄な抵抗をしない会社でなければ、会社にキャッシュは貯まらないのです。
キャッシュが多い会社も時には赤字となります。
それでもなかなか潰れません。破産する会社には、元々キャッシュが少なく体力がありませんので、一社の取引先が倒産したらすぐに連鎖倒産したり、購入した不動産や無駄な機械の借入返済のために資金繰りに窮したりすることになります。
目の前の損得に囚われると近視眼となり、税金の負担という壁にあらがって、却って自分の首を絞める結果となります。また、この節税を積極的に手伝って会社を悪くする節税提案をする税理士が多いのも非常に問題です。
お金持ちが知っている節税術の実態!富裕層の税金対策を徹底解説これが最大の特徴かもしれません。『キャッシュが毎年減っている。一つの取引先の占有率が高い。貸倒れについて対策がない。
節税が大好きである。キャッシュが少ない。』ということに自分自身が全く気付いていないのです。
それはなぜでしょうか?ズバリ決算書が読めないからです。
色々な不安を抱えていても、それが漠然として一向に解決しない一つの原因は、決算書の読み方が分からないからです。
「銀行が貸してくれるのはうちに信用があるからだ」と、訳の分からないことを信じたり、「税理士は会社が危なかったらきっと言ってくれるはずだが、何も言わないのでうちは大丈夫だろう」と言って不安を解消しようとしたりしますが、そんなことは単なるごまかしに過ぎません。
決算書が読めるようになれば、経営上のすべての問題点を発見し解決できるわけではありません。しかし少なくとも自分の会社の現状を把握することはできるようになります。
以上は破産会社の決算書の特徴ですが、普通に経営している会社の決算書にも破産会社の特徴が当てはまっていることが非常に多いです。
自社の経営状態を改善したいと考えている経営者の方は、まずは自社の決算書を理解して現状を把握することが大切だと思います。
創業10年以内に閉鎖廃業する企業が多いのも、決算書を見れば、どれも倒産予備軍であることが直ぐに分かります。
まずは自身の会社の現状を知ることが大切です。漠然とした不安の原因は、現状を正確に把握していないことです。
決算書を見て正確に現状をアドバイスできる専門家に相談してみてください。
顧問税理士にアドバイスを求めるのが通常でしょうが、あまり参考にならないと感じた場合は(そういうケースの方が多いと思いますが)、色々な専門家を当たってください。
経営者の集まりに参加して、先輩経営者のアドバイスを受けることも参考なります。
経営者は常に自己研鑽が必要です。
自分に足りないものがわかれば、問題は既に解決しているのです。
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このコラムの著者 : 白木智巳
ロータックス法律会計事務所 代表弁護士 昭和45年12月生まれ(いて座のA型)•大阪府豊中市出身 平成元年 • 大阪府立豊中高校卒業(豊陵会41期) 平成6年 • 同志社大学経済学部卒業 平成14年 • 弁護士登録(大阪弁護士会)(修習期55期) 平成19年 • 中国留学(上海復旦大学)・上海協力法律事務所で執務(現日本法顧問) 平成22年 • 白木法律事務所開設 • 桃山学院大学大学院 経営学研究科 講師(平成27年まで) • 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー就任 • 大阪商工会議所 国際部 中国ビジネス支援室 外部相談員 • 京都企業支援ネットワーク 中国法分野相談担当 平成24年 • 近畿税理士会へ税理士登録 • 白木法律会計事務所に名称変更 平成28年 • ロータックス法律会計事務所へ名称変更