投稿日:2020年09月06日
更新日:2023年05月25日
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売上代金などを取引先から受取手形で受領することは、資金繰りを圧迫するだけではなく割引料などの経費負担も重くのしかかります。
2021年に経済産業省が「2026年を目処に約束手形の利用を廃止する」と発表していても、いまだに約25兆円の残高で推移している手形取引です。
下請けなどの立場で申し出しにくい受取手形の断り方ですが、この記事では、具体的な3つのアプローチと、申し出る際の文章について考えてみます。
目次
受取手形(支払者の立場では支払手形)とは、手形に記載された金額について、期日に支払うことを約束する紙面(有価証券)のことです。
日本においては約350年にわたって利用されてきた決済手段ですが、以前から受取人側の負担が大きくなることが問題視されてきました。
逆にいえば支払者は支払手形で支払うことで、実際の支払いを先延ばしするメリットがあったわけです。
つまり手形決済を断るということは、一時的にせよ支払者へ資金繰り上の負担をお願いするということになります。
そのため支払手形の断り方は、いずれのアプローチをとるにせよ、取引先との関係を正面から話し合う機会になることを理解しておきましょう。
そのうえで現実的な3つのアプローチを紹介しますが、これらの内容に沿って取引先と相談すれば、新たなパートナーシップも見えてくるかもしれません。
下請け法とは、正式には「下請代金支払遅延等防止法」という法律で、親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する法律です。
この法律に基づいていくつかの通達が出されており、平成28年12月に出されたもので「下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。」とあります。
これはあくまで「お願い」レベルの話ですが、近年は手形の支払期日にも注文がつけられ、令和3年3月31日に中小企業庁長官と公正取引委員会事務総長が連名で以下の要請を行っています。
かなり踏み込んできていることが分かると思います。それに加えて冒頭に紹介した約束手形廃止の流れがあります。これは「社会的要請による」支払手形を断るチャンスだといえるでしょう。
このような行政文書を同封して、支払先へ手形取引から振り込み決済への変更を依頼することが一つ目のアプローチ方法です。
下請け法を交えて手形取引をお断りする場合、以下のような文章で取引先に打診してみましょう。
(文例)
支払条件変更のお願い
拝啓
貴社ますますご盛業のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご愛顧を賜り深謝いたします。
さて、弊社は長年にわたり御社からの集金方法を手形決済としてまいりました。
しかるに近年は、公正取引委員会や中小企業庁からの要請や、経済産業省の約束手形の利用廃止の方針もあることはご存じのことと承知しております。
同封させていただいた資料をご覧いただければ、そう遠からず手形決済は難しくなることと推察いたします。
これら社会的要請を貴貨として、今後の御決済について振り込みによる方法へのご変更をお願いするところであります。
御社の御都合も配慮させていただきますので、一度ご検討のうえご回答を賜ることをお願い申し上げます。
本件、お手数をおかけいたしますが、ご協力賜わりますよう、お願い申しあげます。
敬具
手形決済については、支払企業にとっても手形帳の費用や印紙代など一定の負担があるので、廃止したいという意向を持つ企業も多いようです。
ダメ元とまでは言いませんが、一度打診してみる価値はあります。
手形取引の問題点は、下請け法で最長でも60日と定められている支払サイトに手形決済されると、150日以上も売上金を現金化できないことです。
取引先の資金繰り悪化を理由として手形取引解消を申込む方法は、理由として分かりやすいものの、自社の経営状況を怪しまれる可能性も考えなければなりません。
これは銀行への融資申し込みと似ていますが、資金難は一時的なもので将来的に解消できるプランを示す必要もあります。
言い訳のようなものですが、一時的な資金需要に対応できないことを理解してもらい、手形取引を解消してもらいましょう。
このアプローチを利用するときは、顧問税理士と「言い訳」の相談をすることをオススメします。
資金繰りが厳しいことを理由として手形取引を断る場合は、以下のような文章で取引先に打診してみましょう。
(文例)
支払条件変更のお願い
拝啓
貴社ますますご盛業のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご愛顧を賜り深謝いたします。
さて、弊社の取引先において経営難に陥っている事業所があり、そこからの売上代金回収が滞っているところであります。
事業継続に関しては問題ないものの、これから数か月は資金繰りが非常に厳しい状況になってしまいます。
顧問税理士と相談したところ、取引を長く続けさせていただいている御社へ、手形取引から現金取引への変更を依頼してはどうかと助言された次第です。
急なお願いで恐縮ではありますが、今の窮状をお助けいただきたくお願い申し上げます。
本件、お手数をおかけいたしますが、ご協力賜わりますよう、お願い申しあげます。
敬具
この資金繰り悪化の理由と、この先の見通しについて取引先に危惧されないようにするところがポイントです。
業種や取引先との関係性をよく考えたうえで実行すべきですが、できれば文書よりも前に先方のキーパーソンと口頭で相談したほうが無難だといえます。
取引中止を覚悟のうえ手形取引を解消する方法は、ある意味でいえば自社の経営内容に自信がなければできないことです。
このアプローチを使う場合は、その取引先を失っても良い状況を作ってからやるべきで、そうでもなければ自殺行為になりかねません。
たとえ自社に独自性が高い商品やサービスがあったとしても、新たな販路や取引先のない段階でやるのは危険すぎます。
もしそこまで至ってないのであれば、手形取引を解消する前にやることがあるでしょう。もし取引先を失っても大丈夫なら、あとは失礼にならない程度に強気でいきましょう。
強気に取引を中止する覚悟で手形取引を解消する場合は、以下のような文章で取引先に打診してみましょう。
(文例)
支払条件変更のお願い
拝啓
貴社ますますご盛業のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご愛顧を賜り深謝いたします。
さて、弊社は今春より、事業体制強化のために内部組織を改編し、新たに財務担当を招き入れることになりました。
ついては重点取組目標の一つとして、売上債権回転率を上げることとし、その一環としてこれまで手形決済としてきた御社とのお取引を現金決済へ変更することとしました。
経営基盤強化のため、各取引先様にご理解いただいているところなので、御社にも同様のご理解を賜りたいとお願い申し上げます。
本件、お手数をおかけいたしますが、ご協力賜わりますよう、お願い申しあげます。
敬具
強気で行くにしても、無理に相手の心証を悪くする必要はないので、あくまで「決定事項です」というスタンスで伝えましょう。
SMC税理士法人では、金融機関OBや税理士をはじめ経験豊富なプロが御社の円滑な 税務処理、確定申告 をサポートいたします。お電話やお問い合わせフォームから相談可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
このコラムの著者 : 曽根 康正
SMCグループ顧問、1959年(昭和34年6月8日)に岐阜県多治見市で生まれる。 「社外重役の立場から専門能力を発揮し中小企業を支援する」 というグループ経営目標のもと、東海エリアにおいてNo.1の会計事務所を目指す。