投稿日:2022年09月20日
更新日:2023年05月23日
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2021年(令和3年)4月、所有者不明土地等の発生予防と利用円滑化を目的として、「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)」が成立し、それに伴い不動産登記法も改正されました。
これによって2024年(令和6年)4月1日から、不動産の相続登記の申請が義務化されます。しかも相続登記の義務化が施行される以前に相続した不動産についても、遡及して適用されます。
この記事では相続登記の義務化についての内容の確認と、今からとるべき対策について解説します。
目次
今回法律によって義務化される相続登記ですが、これまでは任意であったため、資産価値の低い不動産ほど相続登記もされず「所有者不明土地」となるケースが増え続けていました。
それを防ぐために相続登記を過去分にさかのぼって義務化されます。まずは相続登記の義務化について内容と、手続き時に必要な書類などを再確認しておきましょう。
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)から土地や建物などの不動産を相続したとき、相続人へ名義変更する手続きのことです。相続登記を行わず被相続人の名義のままだと、相続しても第三者にたいして不動産の所有権は主張できません。
つまり相続登記なしでは、不動産を売却したり担保に入れたりできなくなるので、非常に重要な手続きとなります。今までは、相続登記をいつまでに行わなければならないかなど法的な取り決めがなく、名義が変えられないまま放置されていた土地等が増えていました。
しかも売れないどころか維持費がかさむような資産価値の低い不動産ほど、相続登記もされず所有者不明土地になりやすく、社会問題になっていました。
民法と不動産登記法等の法律改正により、義務化されたものは2点あります。一つが「相続登記の申請は3年以内」という内容と、もう一つが「所有権の登記名義人の氏名または名称、住所の変更の登記申請を5年以内」というものです。
相続登記は相続の開始を知って、かつ所有権を取得したと知った日から3年以内に登記申請しなければなりません。また遺言状がないなど分割協議をする場合は、分割した日から3年以内となります。
遺産の分割協議で揉めて時間がかかりそうなときは、法定相続人の1人が仮に申請して義務を履行したことにする「相続人申告登記」も新設されています。
所有権の登記名義人の氏名等の変更登記ですが、これを義務化することによって、所有者が転居を繰り返して所在が分からなくなることを防ぐ目的があります。都市部では所有者不明土地の主な原因になっているといわれます。
これらの制度を推進するため、登記官が死亡等の情報を職権で登記に表示する「登記名義人の死亡等の事実の公示」や、特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行する「所有不動産記録証明制度」の施行が予定されています。
もし相続登記を3年以内に申請しなかったとき、何かペナルティはあるのでしょか。今回の改正では、「正当な理由なく怠れば10万円以下の過料が課される」とされ、可能性としてはありえます。
現段階では明確な基準は示されていませんが、登記官が義務違反の事実を把握した場合、相続人にあらかじめ催告しても、理由なく義務を履行しないなどのケースに過料通知をするなど、手続を法務省令において明確にすることが予定されています。
今回の法改正で話題になったものが、相続した土地を、法務大臣(法務局)に申請し、承認を得た上で国庫に帰属させる制度です。つまり「いらない土地を国有地にしてもらう」ことができます。
ただ相続人のモラルハザードを防ぐため、一定の要件が定められていて、以下のような土地は国庫に帰属させることができません。
また承認されたとしても、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を、国庫帰属時に支払わなければなりません。
相続登記の申請手続きは、相続する土地を管轄する法務局で行うのですが、遺言書があれば誰が土地を相続するか示されているはずなので、比較的スムーズに進むでしょう。また相続人が少ないケースも、手間はかかりますが自分で申請することも可能です。
ただ土地は権利関係が複雑なことも多く、不安を感じるなら専門家へ相談するのが無難だといえます。また少なからず相続税の問題もあるので、その点を含めて相談先を検討しましょう。
所有者不明の土地についてはかねてより問題視されていましたが、大きくクローズアップされたのが東日本大震災のときです。
ここからは所有者不明の土地の問題点と、義務化が迫る中で今から取るべき対策について考えてみましょう。
かねてから「所有者不明の土地」は問題視されていて、「公共事業のため取得しようとした土地が、明治時代の登記のままになっていて相続人多数となり、用地の取得に多大な時間と労力を要した」といった事例が全国中で報告されています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災のあとの復興事業では、このような事例が頻発して大きな問題となりました。復興庁のデータによると、岩手・宮城・福島3県での防災集団移転促進事業の用地取得率は、2013年9月の時点で48%ほどに留まっていました。
この原因の多くは相続登記等の不備に起因しており、土地収用手続き緩和のために東日本大震災復興特別区域法の改正を迫られたのです。
これまでは義務化されていなかった相続登記ですが、実際にどれくらいの土地が所有者不明になっているのでしょうか。国土交通省の「土地白書(平成30年版)」によれば、登記されている土地の約20%が「所有者不明の土地」で、面積は九州のそれを上回るほどです。
一般財団法人国土計画協会による予測では、このままいけば2040年には所有者不明の土地面積は720万ヘクタールとなり、北海道の面積に迫ると考えられています。
これを放置していると隣接地をふくめて土地の有効活用の妨げになるので、今回のような法改正は不可避だったのでしょう。
医療・介護の分野では以前から「2025年問題」と言われている、団塊の世代の後期高齢者化が目前に迫っています。本格的な多死社会になると当然相続の発生件数が増えるので、相続登記の義務化はあらためて注目する必要があります。
相続登記の義務化は2024年4月1日からとなりますが、過去にさかのぼって適用されるので、かなり大きな影響を及ぼすでしょう。
相続を済ませていながら土地等の変更登記を行っていなければ、いずれ催告されることが予想されます。まだ遅くはないので土地等の登記状況を確認し、もし従前の登記内容のままだったら早めに変更登記を済ませておくことをおすすめします。
また遠からず相続がありそうな方も、相続登記の問題だけではなく、相続税を含めた早めの準備をお考えください。備えあれば憂いなしなのです。
「所有者不明の土地」問題解決の切り札とされる相続登記の義務化です。昔は「一所懸命」という言葉に表されるとおり、土地は最大の財産とされていたのですが、時代の変化とともにともすれば負債にもなる土地です。
場合によっては知りもしない先祖の土地に関して、登記の催告を受けるかもしれません。そうなると権利関係の把握も容易ではないので、専門家の力を借りることを検討すべきです。まだ期間はあるので、今一度見直しを進めておきましょう。
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このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。