投稿日:2020年03月22日
更新日:2023年03月17日
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目次
平成14年に私が弁護士になった当時、担当する事件の多くが破産事件であり、破産に至った経緯を裁判所に報告するという業務を行っていました。司法試験に合格したものの、それまで会計の勉強もしたことがなく、決算書は難しいものであるとの思い込みもあって、当時は非常に往生した記憶があります。
会計についての解説書を買ってきては手当たり次第に読みましたが、どうも専門用語が多くて、わかったような、わからないような、もやもやした気がしていました。
勤務先の事務所には過去の破産事件の記録があるので、それを参考にして、とりあえずの経過を説明しようとしますが、どうもしっくりきません。「どうしてこの会社は倒産するに至ったのか?」、自分で納得したことを報告書に記載したいのですが、どうもよくわからないのです。
そこで今回からのシリーズで、倒産の原因を理解するためにはどうしたらいいのか、自分なりに苦労した決算書の読み方を説明したいと思います。
倒産の原因がわかれば、それを避けるように経営すれば倒産しませんし、倒産会社と全く逆の経営をすれば儲かる会社になると思います。
決算書の読み方がわからない経営者の方も多いと思いますので、参考になれば幸甚です。
お金持ちが知っている節税術の実態!富裕層の税金対策を徹底解説決算書は誰のために作成するのかということが色々な本に載っております。投資家のため、債権者のため、等と説明されていますが、中小企業の決算書を投資家が見るはずもなく、どれもピンときません。
あくまで私見ですが、現状の決算書は税務署の税金の計算のためであると思います。
要するに経営者が経営を行うために作成されるものではありません。ですから経営者にとっては見にくいのです。
税金を徴収する税務署からすると、損益計算書の税引前当期利益に税率をかけると税金額の計算が簡単にできます。しかし、経営者が会社の経営状態を把握するには不便です。
貸借対照表は決算日の財産状況、損益計算書は1年間の経営成績が分かります。
損益計算書には、売上、仕入原価、売上総利益、販売管理費、営業利益、経常利益、税引前当期利益、当期利益の順に記載されています。
一方貸借対照表には、左側に資産、右側には負債と資本金や利益剰余金が載っています。
しかし決算書は多くの情報が抽象的に記載されており、どれが大切なのかわからないというのが、弁護士になりたて当時の私の印象でした。皆さんも同じではないでしょうか?
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決算書には多くの情報が載っています。分かりやすいのは損益計算書ですが、経営者であれば貸借対照表を読めるようになって欲しいと思います。倒産の原因を理解するために、そしてそれを回避するためにも、決算書を理解していきましょう。
破産法上の破産の要件は「支払い不能」です。要するに破産とは、会社の負債を会社の財産で支払いできない状態を言います。
会社にとって一番大切なものは何でしょう?それは現預金です。資産には外にも売掛金や不動産などがありますが、一番大切な資産は現預金です。
その現預金が少なくなり、借金を支払えなくなることで会社は倒産するのです。
現預金は、貸借対照表の左側の一番上に、決算日の残高が記載されています。
新前の破産弁護士の私は、現預金のこれまでの推移がその会社の一番大切な情報だと思いましたので、3年から5年分の過去の決算書を見比べることにし、そこで大切な情報を発見しました。どんな情報なのかというと、実は非常に簡単なのです。
倒産に至った会社は、現預金残高が3年前から毎年30%以上減少していたのです。
33%ずつ現預金が減少していれば、3年経過すると現預金残高がなくなって借金が支払えなくなります。
「現預金残高がいくらで、前年から減少しているのか、増加しているのか?」
これが会社の運命を決定する一番大切な情報です。
現預金残高が増えていれば、会社が直ぐに潰れることはありません。
一方、現預金残高が減っているのであれば、経営はうまくいっておらず、少しずつ破産へ近づいているのです。
さらに私を驚かせたのは、破産する会社の経営者は、3年前から会社の現預金残高が33%ずつ減少していたことを知らなかったことです。
新前破産弁護士の私は、現預金残高が減少している原因がわかれば、破産に至った経緯も明確になり、きちんとした報告書を裁判所に提出することができると考えました。
収入に比べて支出が多ければ会社の現預金はどんどん減っていきます。
それは決算書が読めなくてもわかります。単なる足し算と引き算であり、小学生でもわかります。
でもそれがわからなかった経営者が会社を倒産させたのです。
収入以上の支出を行っていても、借り入れに成功すれば一時的には現預金が増えますので、それで安心する経営者がいます。
借入の返済原資をどれぐらい稼ぎ出せばよいのかという計算もろくにせずに、どうして会社経営ができるのでしょうか。
「会社の現預金残高が減少していても銀行はまた貸してくれるはずであると信じていたが、貸してくれなかった。だから会社は倒産した」と破産会社の経営者は嘆きます。会社倒産の原因は銀行が我が社を見捨てたからであると、銀行を恨む経営者も多くいます。
銀行が見捨てたので倒産した会社などこの世には存在しないと思います。間違いなく経営者が借入を返済できなくなるような経営を行ったことが原因なのです。
経営者が把握しなければならないのは現預金残高であり、その現預金残高が減少しないような経営、つまり借入金を利益で返済できる経営をすることなのです。
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新前弁護士の私は、損益計算書の最終の利益がそのまま会社の現預金に積みあがるのではないことすら知りませんでした。
損益計算書には5つの利益が記載されていますが、一番下にかかれている税引き後の利益を「純利益」と言います。
荒っぽい計算方法ですが、純利益に減価償却費を足して、1年間に返済する借入れ元本を引いた残りがゼロ以上であればキャッシュが増加し、ゼロ以下であればキャッシュが減少します。
純利益 + 減価償却費 - 1年間の借入返済元金 > 0 → 現預金増
純利益 + 減価償却費 - 1年間の借入返済元金 < 0 → 現預金減
正確な現預金の増減の数値はキャッシュフロー計算書で計算しますが、ここでは、損益計算書によるキャッシュのポイントだけ理解しましょう。
損益計算書は収益と費用が記載されていますが、実際に現金が動いていない掛け取引や、お金が出ていかない減価償却費も費用で計上されています。また借入金の返済は現預金が出ていきますが損益計算書には反映されません。
こうした取引により、損益計算書の純利益は会社の現預金残高とは一致しなくなるのです。つまり損益計算書の純利益がプラスでも会社の現預金残高が増えるとは限らないのです。
新前弁護士の私は、「なんだ、損益計算書を見ても現預金残高とは必ずしも連動しないんだなぁ。損益計算書は税金を計算するためにあるんだなぁ。」と思いました。
ということは、損益計算書上の利益が出ていても、減価償却費が少なくて1年間の借入返済元金額が多く、
純利益 + 減価償却費 - 1年間の借入返済元金 < 0
となっていれば会社の現預金額が減少し、その減少が毎年30%以上であれば会社は倒産することになります。
破産する会社の経営者は「利益は出ていたが会社に金は残らなかった。」と、キツネにつままれたように言っていた人が多くいました。
純利益 + 減価償却費 - 1年間の借入返済元金 < 0
という状態にありながら、利益を出せるいい経営をしていると勘違いをして、結局は会社を倒産させたのです。
繰り返しますが、損益計算書で利益が出ていたとしても、キャッシュが増えるとは限らないのです。絶対に忘れないようにしてください。
入ってくる金よりも出ていく金が多ければ、今ある現預金はいずれなくなります。これは当たり前のことであり、会計の参考書を読むまでもなく、小学生でも理解できます。
ということは、
純利益 + 減価償却費 - 1年間の借入返済元金 > 0 → 現預金増
となる経営をすれば、毎年現預金残高が増えて、安定した財務状況となります。
現預金額が減少傾向にある会社は、現預金額が減らない経営を目指すべきです。
例えば、1年間の借入返済元金額が1000万円、減価償却費が年間500万円の場合は、純利益が500万円以上でないと会社の現預金は増えません。
純利益が500万円で税率が40%とすると、税引前利益の額は500万円÷(1-0.4)=約833万円となり、税金の額は333万円となります。
少なくとも経常利益や営業利益は833万円以上が必要ですので、給与や家賃、消耗品費等の固定費が2000万円であるとすれば、売上総利益は2833万円必要です。
この会社の仕入や外注費等の変動費率が売上総額の50%であれば、売上は5666万円必要となります。
尚、この売上高でも現預金はプラスマイナスゼロとなりますので、現預金額を増加させるにはこれ以上の売上が必要となります。
経営計画などで事業計画を立てるときの売上の目標は、このように逆算して立てるべきであると考えています。ポイントは、どれぐらいの売上をあげれば現預金が減少しなくなるのかという、最低限の売上目標を設定することです。
会計の参考書では「損益分岐点」という計算式があります。どれぐらいの売上をあげれば利益がゼロからプラスとなるかを計算する式です。
私としては、損益分岐点よりも「現預金増減分岐点」の方が会社の将来にとって重要であると思っています。
是非、1年間の借入返済元金額と減価償却費から、一年間に売り上げるべき売上額を計算してみてください。これこそ現預金が増える経営なのです。
多くの経営者の方は、損益計算書の税引前当期利益だけを気にします。
税引前当期利益が3000万円ならば、おおよそ税金が1000万円程になります。税金を支払いたくない経営者は、決算期前に税理士に税金を減らすよう泣きつきます。
一方税理士も「利益が出ているのであれば、節税しましょう」と、本来会社にとって必要のない節税のアドバイスをして、税引前の利益を下げる手伝いをします。
節税保険、投資物件、従業員への決算賞与等、会社の資金を使う提案をするのをよく見ます。
これにより会社の利益の額が減少して税金は少なくなりますが、会社に残る現預金の額も減少し、破産に一歩二歩と近づきます。しかしそれに気がついてはいません。
目の前の納税の痛みを回避するために会社に残すべき現預金を減少させ、結果として会社の体力を奪うことになります。
これに取引先の倒産等の事故が重なれば、あれよ、あれよという間に現預金が底をついていきます。そして銀行からは借り換えを拒否され、手形の期限も近づき、だんだんと精神的に追い込まれていきますが、現預金が底をつけば顧問料も支払えず、節税をアドバイスした税理士は電話にも出てくれません。
新前破産弁護士時代に、破産する会社の決算書を読めたと感じたときから、経営者の無知や勉強不足、無責任な税理士の実情が実感を込めてわかったような気がしました。
「会社の現預金残高の減少を気にも留めない不勉強な経営者と節税税理士が会社を潰す。」
新前破産弁護士の私はそう確信しました。
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このコラムの著者 : 白木智巳
ロータックス法律会計事務所 代表弁護士 昭和45年12月生まれ(いて座のA型)•大阪府豊中市出身 平成元年 • 大阪府立豊中高校卒業(豊陵会41期) 平成6年 • 同志社大学経済学部卒業 平成14年 • 弁護士登録(大阪弁護士会)(修習期55期) 平成19年 • 中国留学(上海復旦大学)・上海協力法律事務所で執務(現日本法顧問) 平成22年 • 白木法律事務所開設 • 桃山学院大学大学院 経営学研究科 講師(平成27年まで) • 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー就任 • 大阪商工会議所 国際部 中国ビジネス支援室 外部相談員 • 京都企業支援ネットワーク 中国法分野相談担当 平成24年 • 近畿税理士会へ税理士登録 • 白木法律会計事務所に名称変更 平成28年 • ロータックス法律会計事務所へ名称変更