投稿日:2023年01月19日
更新日:2023年05月23日
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2023年10月よりインボイス制度が開始します。しかし、インボイス制度の仕組みがよくわかっていない方も多いのではないでしょうか?インボイス制度は、免税事業者の一人親方に大きな影響を与えます。
本記事では、2022年12月に公表されたインボイス制度の詳細も踏まえて、インボイス制度が一人親方に与える影響と対応方法を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
消費税は、普段の生活や事業に深く関わっています。消費税率変更の際にはニュースで大々的に取り上げられ、注目度の高い税金です。
消費税の仕組みと、課税事業者、免税事業者の違いを解説します。
税金は、直接税と間接税の2つに分類されます。直接税は税金を納める人と負担する人が同じ税金で、所得税はや法人税などがあげられます。一方で、間接税は税金を納める人と負担する人が違う税金で、消費税や酒税、たばこ税などがあげられます。
コンビニで商品を買った際、購入者は消費税をコンビニに支払います。そして、コンビニが購入者から一時的に受け取った消費税を後で国に納付する仕組みです。このように、税金を負担する人と納める人が異なるため、間接税と呼ばれます。
直接税 | 税金を納める人と負担する人が同じ |
---|---|
所得税、法人税、相続税、贈与税、自動車税、固定資産税など | |
間接税 | 税金を納める人と負担する人が違う |
消費税、酒税、たばこ税、ゴルフ場利用税、入湯税など |
コンビニの例を紹介しましたが、一人親方の場合も仕組みは同じです。一人親方に仕事を発注した発注者は、消費税を一人親方に支払います。50万円の仕事を発注した場合は、10%の消費税も含めた55万円を一人親方に支払います。
消費税を受け取った一人親方は、原則、消費税5万円を後で国に納付することが必要です。
「課税事業者」である1人親方は、この消費税5万円を国に納付が必要です。
一方で、「免税事業者」である1人親方は、この消費税5万円を国に納付する必要がなく、
受け取った消費税を自分の売上となります。免税事業者の一人親方は、受け取った消費税全額を売上に計上可能です。
ただし、免税事業者は誰でもなれるわけではなく規定があります。以下の基準期間もしくは特定期間に課税売上が1,000万円を超えた事業者は免税事業者になれず、課税事業者となります。
基準期間 | 特定期間 | |
---|---|---|
個人事業主 | 前々年の1月1日~12月31日 | 前年の1月1日~6月30日 |
法人 | 前々年の事業年度 | 前年の事業年度開始時後の6ヶ月 |
上記の期間に課税売上が1,000万円以下の方は、原則、免税事業者です。
このように規模の売上規模の大きさによって消費税の課税事業者と免税事業者に該当するかが変わります。
仕入税額控除は、課税事業者が納付する消費税の計算の際に、売上にかかる消費税から仕入れにかかる消費税を差し引いて計算する仕組みです。
建設業者の年間の売上が1億円・受け取った消費税が1,000万円とします。売上1億円を上げるために、材料の仕入れや一人親方などへの外注費が4,000万円かかるとすると、建設業者は4,000万円の仕入れをする際に400万円の消費税を支払っています。
この場合、建設業者が国に納付する消費税は、売上にかかる消費税1,000万円から仕入れにかかる消費税400万円を引いた600万円となる仕組みが仕入税額控除です。
建設業者が国に納める消費税
売上にかかる消費税1,000万円―仕入れにかかる消費税400万円=600万円
仕入税額控除は、消費税の二重課税を解消するための制度となります。
2023年10月より、インボイス制度が始まります。インボイス制度は、「適格請求書保存方式」と言い、消費税の仕入税額控除が行える要件を新たに定めた制度です。
事業者は、仕入れ先や外注先が発行する適格請求書(インボイス)がなくては仕入税額控除を行えなくなります。そして、適格請求書(インボイス)の発行に必要な登録番号は、課税事業者のみ発行可能です。
そのため、免税事業者は取引先に対して適格請求書(インボイス)の発行ができず、取引先は仕入税額控除を行えなくなります。適格請求書(インボイス)を発行するには、課税事業者になることが必須です。
お金持ちが知っている節税術の実態!富裕層の税金対策を徹底解説インボイス制度開始で、どのような影響があるのでしょうか?インボイス制度開始前と後での発注者の費用負担の変化を解説します。
インボイス制度開始前(~2023年9月)は、一人親方に仕事を発注する発注者は一人親方が免税事業者であっても課税事業者であっても、関係なく仕入税額控除を行えます。
100万円の発注を一人親方にした際に支払う消費税10万円は、あとで仕入税額控除ができたため、売上にかかる消費税と相殺が可能です。
インボイス制度開始後(2023年10月~)は、免税事業者の一人親方に仕事を発注した場合、発注者は仕入税額控除を行えません。
100万円の発注を免税事業者の一人親方にした場合、支払う10万円の消費税を売上にかかる消費税と相殺できません。そのため、発注者の負担が10万円増えます。発注者は、今まで100万円で発注できていた仕事を110万円で発注するため、10%のコスト増加となります。
インボイス制度開始で、免税事業者の一人親方が考慮すべき影響を解説します。
取引先である発注者にとっては、免税事業者に発注すると消費税の仕入税額控除が行えず、コストが増加します。同じ費用で仕事を請けてくれる課税事業者の一人親方に仕事を依頼するかもしれません。
逆に考えると、自分が課税事業者になれば上記と同様の理由で他の発注者から仕事の相談が来るかもしれません。課税事業者になるのであれば、課税事業者であることを積極的にアピールしましょう。
発注者のコスト負担を軽くするために免税事業者だった一人親方が課税事業者になった場合、自分の消費税負担が重くなります。課税事業者になれば、消費税の納付は義務です。今まで売上として受け取っていた消費税は、国に納めてなくてはなりません。そのため、実質的な売上の減少につながります。
一方、免税事業者のままでいれば今まで通り消費税は売上として全額受け取れますが、仕事が減る可能性があります。課税事業者になるか、免税事業者になるかは慎重な判断が必要です。
自分が課税事業者になった場合、他の一人親方に仕事を依頼する際には注意が必要です。課税事業者は、仕入税額控除を行います。自分が100万円(税抜)で受注した仕事を70万円(税抜)で他の一人親方に依頼したとします。現状のお金の明細は以下の通りです。
発注者から受け取ったお金:110万円(売上100万円+消費税10万円)
仕事を依頼した一人親方に支払うお金:77万円(発注費70万円+消費税7万円)
仕事を依頼した一人親方が課税事業者の場合と免税事業者の場合で、自分が納付する消費税額が異なります。
課税事業者の一人親方に仕事を依頼した場合に納付する消費税
(発注者から受け取った消費税10万円)ー(一人親方に支払った消費税7万円)=3万円
免税事業者の一人親方に仕事を依頼した場合に納付する消費税
(発注者から受け取った消費税10万円)=10万円
上記の通り、免税事業者の一人親方に仕事を依頼した場合は仕入税額控除を行えないため、課税事業者の一人親方に仕事を発注した場合と比較して、7万円も国に納める消費税が高いです。そのため、自分の手元に残るお金に7万円もの差が出ます。
一人親方同士で仕事の受発注を行う際にも、非課税事業者か課税事業者かは重要なポイントです。
破産法は再建のための法律。破産手続Q&Aインボイス制度開始を受け、免税事業者の一人親方が取りうる選択肢を解説します。また、インボイス制度の開始直後は負担軽減措置が講じられるため、負担軽減措置の内容も踏まえて説明します。
インボイス制度開始後も免税事業者のままでいることも一つの選択肢です。メリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
デメリット
ただし、インボイス制度開始直後は大幅な発注者の負担増加を防ぐために緩和措置が取られます。緩和措置期間中、発注者は免税事業者からの仕入税額相当額の一定割合を仕入税額控除が可能です。期間と割合は以下の通りとなります。
期間 | 割合 |
---|---|
2023年10月1日~2026年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
2026年10月1日~2029年9月30日 | 仕入税額相当額の50% |
2024年に免税事業者の一人親方に100万円の仕事を依頼した場合、消費税10万円のうち8万円を仕入税額控除できます。これにより、発注者が免税事業者に発注する際の急激なコスト増加の軽減が可能です。
ただし、2029年10月1日以降は、免税事業者に発注した際の仕入税額控除は一切できません。
インボイス制度開始にあたり、課税事業者になることも選択肢の一つです。課税事業者には、簡易課税制度と一般課税制度の2種類があります。
課税事業者は売上や仕入れにかかった消費税を細かく計算する必要があり、手続きが煩雑です。この問題を解決するため、課税売上が5,000万円以下の事業者は簡易課税制度を選択できます。簡易課税制度は、売上にかかる消費税のうち一定割合をみなし仕入れ率として計上する制度です。
以下のように、業種ごとにみなし仕入れ率が決まっています。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)) | 80% |
第3種事業(農業、林業、漁業(飲食品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4業種(第1、2、3、5、6業種以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
一人親方は第3種事業に分類されることが多く、みなし仕入れ率は70%です。簡易課税制度を利用する一人親方の年間売上が900万円で受け取った消費税が90万円の場合、仕入れにかかる消費税は63万円(90万円×70%)で計算します。国に納める消費税は90万円から63万円を引いた27万円です。
課税事業者の簡易課税制度のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
デメリット
課税事業者には、簡易課税制度だけでなく一般課税制度もあります。一般課税制度は、売上にかかる消費税と仕入れにかかる消費税を相殺して、納付する消費税を計算する方法です。
原材料や外注費などの仕入れが多い一人親方は、一般課税制度を利用すれば納付する消費税の減額が可能です。一方で、仕入れにかかる消費税を計算する必要があるため、税務処理は煩雑となります。
課税事業者の一般課税制度のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
デメリット
インボイス制度開始直後の負担を軽減するため、インボイス制度開始に伴い免税事業者から課税事業者になった方への支援措置が実施予定です。
2026年9月30日まで、納税する消費税が売上税額の20%となります。年間売上が900万円で受け取った消費税が90万円の場合、納付する消費税は18万円(90万円×20%)です。一人親方の場合、課税事業者の簡易課税制度よりも納税額が少なくなるため、支援措置の利用を検討してみてください。
紹介したインボイス制度開始後の免税事業者一人親方の選択肢ごとのまとめは以下の通りです。
対応方法 | 一人親方の消費税負担 | 取引先の消費税負担 |
---|---|---|
免税事業者のままでいる | 発生しない | 制度開始前より増加する *~2026/9/30は仕入税額の80%を仕入税額控可能 ~2029/9/30は仕入税額の50%を仕入税額控可能 |
課税事業者(簡易課税制度)になる | 売上税額の30%を納税 *~2026/9/30は売上税額の20%を納税 |
制度開始前と変化無し |
課税事業者(一般課税制度)になる | 発生する *~2026/9/30は売上税額の20%を納税 |
制度開始前と発生しない ※簡易課税の場合の30%納税額は、一人親方は第3種事業に分類されることが多いため、みなし仕入れ率は70%と仮定した場合 |
インボイス制度開始直後は、税負担を軽くするための処置がとられます。ただし、今まで発生していなかった負担が発注者か一人親方に生じることに違いはないので、自分にとって最善の方法を検討してみてください。
課税事業者になると、取引先に適格請求書(インボイス)を発行します。既存の請求書に加え、インボイスの登録番号などの記載が必要です。課税事業者になる場合は、請求書の書式変更も同時に行いましょう。
弁護士が見たキャッシュを増やすヒケツ~契約管理の重要性インボイス制度開始後は経過措置や支援措置が行われるものの、発注者か一人親方いずれかの負担が増えます。免税事業者のままでいるのか、課税事業者になるのかは大きな決断です。事前に取引先などに確認して、戦略的は判断を行いましょう。
また、課税事業者への変更は2023年10月にインボイス制度が始まった後でも可能なので、ひとまず免税事業者のまま様子を見てみるもの選択肢の一つでしょう。
一人親方のインボイス制度について解説しました。インボイス制度開始後は、発注者か一人親方の負担が増加します。
事前に取引先などに確認して、戦略的に課税事業者になるか免税事業者のままでいるかの判断を行いましょう。また、インボイス制度は税金が深く関わってくる問題です。
税金に関する悩みは、専門家である税理士への相談も検討してみてください。税理士は、課税事業者になるかどうかを専門的な立場からアドバイスが可能です。
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インボイス制度の内容を分かりやすく解説するとともに、適格請求書発行事業者にならないとどうなるか、現在準備しておくべき事項は何かについてご説明します。
このコラムの著者 : 舩田 卓
1972年愛媛県生まれのA型。 愛媛県立松山商業高校卒業後、東京IT会計専門学校に進学。 在学中に税理士試験を全国最年少20歳で合格。 そのまま専門学校の専任講師となり、税理士試験の受験指導を担当。 22年間務めた講師の道から飛び出しSMC税理士法人に入社。