投稿日:2024年01月18日
更新日:2024年05月15日
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経営において税理士との関係は重要ですが、さまざまな事情により、税理士の変更を考えるケースもあるでしょう。
しかし、「手続きがわからない」「税理士の変更はいつがベストなのか」といった不安や疑問をもつ方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、税理士を変更するベストなタイミングやメリットとデメリット、そして変更する際の具体的な手順についてわかりやすく解説します。
税理士の変更を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
税理士の変更は、ポイントを押さえて適切な準備をおこなえば、それほど難しいことではありません。
よりよいサービスの提供や会社の成長のために、税理士を変更することは珍しくないものの、手続き面などで不安を感じることもあるでしょう。
スムーズに手続きを進めるためには、適切な準備と、税理士を変更するためのプロセスを正しく理解することが大切です。
【定額減税の裏側】定額減税で増える税理士の業務負担と報酬の実態税理士を変更するには、タイミングがとても重要です。
会社の財務状況や申告スケジュール等を考慮しなければ、業務に大きな影響を与えかねないためです。
税理士の変更を考える際には、会社の財務状況、申告スケジュール、そして現在の税理士との関係など、多くの要素を考慮する必要があります。
ここでは、変更に最適なタイミングと、避けるべきタイミングはいつなのかについて詳しく解説します。
税理士の変更にベストなタイミングは、「法人税の申告を終えたあと」と「修正申告を終えたあと」です。
税理士を変更する最もベストなタイミングは「法人税の申告を終えたあと」でしょう。
法人税の申告後は年間の計画を立てることが多いため、税理士の変更をおこなうのに最適なタイミングといえます。
たとえば、12月が決算の法人であれば、申告期限は通常2カ月後の2月末です。そのため、現在の税理士には、申告期限である2月末までは業務をおこなってもらうことが理想です。
また、下の図のように新たな年度がはじまる2カ月ほど前に、新しい税理士に入ってもらうことも1つの案です。
報酬の負担は大きくなるものの、税理士の引き継ぎ期間に余裕を持たせることで、よりスムーズな変更が可能となるでしょう。
修正申告を終えたあとも、税理士を変更するのに良いタイミングといえます。
申告した内容や納税額に誤りがあった場合は、修正申告が必要です。修正申告は1度提出した法人税の申告を修正するものであり、担当した税理士が修正する方がスムーズです。
なお、修正申告が必要な要因の1つに「税務調査」があります。そのため、税務調査の連絡があった場合は、税理士の変更をおこなわない方がよいでしょう。
ここでは、税理士の変更を避けた方がよいタイミングを「4つ」紹介します。
上の図のとおり、決算申告の前や決算期中は、税金計算、法人税申告など、重要な業務が集中しています。
この間に変更をおこなうと、新しい税理士が、既存の会計記録や業務の詳細を把握し、効果的に業務を遂行するのに時間がかかることが想定され、業務の遅延やミスが発生するリスクがあります。
税務調査がおこなわれている場合は、調査に関する文書の準備や税務署との交渉において、現在の税理士の協力が必要です。
途中で税理士が変わると調査に影響を与えかねないことから、税務調査中は税理士の変更をおこなわない方がよいでしょう。
特殊な案件や訴訟などが進行している場合は、問題の背景や情報について現在の税理士が精通していることが多いでしょう。
そのため、新しい税理士がこれらに対応するのは難しい可能性があります。
一般的に、12〜3月は会計事務所の繁忙期となります。
12月は年末調整に関する依頼が多く、1〜3月は確定申告の業務により特に忙しい時期です。この間に新しい税理士と引き継ぎ等をおこなうことは現実的に難しいため、避けた方がよいでしょう。
緊急の必要性がある場合など、できるだけ早く税理士を変更したい場合は、以下の点に注意しましょう。
たとえば、現在の税理士との関係が悪化している状況では、タイミングを考慮しつつ迅速に行動することが重要です。
この場合、新しい税理士を早めに見つけ、必要な書類や情報の準備を急ぐことが求められます。
なお、新しい税理士の業務に余裕がある場合や、法人の規模が比較的小さく引継ぎの量が少ない場合などは、スムーズに変更できる可能性があります。
必要な書類や情報の準備を急ぎ、迅速に行動することが大切です。
税理士の変更により、会社の成長や変化への柔軟な対応など、多くのメリットが期待できます。ここでは、税理士の変更による主なメリットを「3つ」解説します。
新しい税理士の報酬が低い場合は、報酬費用の削減につながります。
しかし「安ければよい」というものではないため、報酬に見合った能力があるのかや、会社が求めるレベルの知識があるのかなど、総合的に判断する必要があります。
特に、現在の税理士の報酬が高いと感じている場合は、市場調査や報酬交渉をしっかりおこなうとよいでしょう。同レベルのサービスを、より低いコストで提供する税理士を見つけることができる可能性があります。
自社が抱える悩みに強い税理士を選ぶことで、より適切なサポートが期待できます。
ビジネスの成長や変化に伴い、会社の悩みや課題は変化していきます。
会社の状況に応じて適切な経営判断をおこなうためには、課題に対応できる税理士を選び、より専門的なアドバイスを受けることが大切です。
さらに、税法の改正や市場の動向に精通している税理士であれば、自社の業務において直面する特有の課題に対して、より効果的な対応が期待できます。
市場や時代の変化に対応し、自社のニーズに合った最新の税法知識を持つ税理士を選ぶことは、企業の成長や安定した経営をおこなううえでとても重要です。
たとえば、国際取引が増えた場合、国際課税に精通した税理士を選ぶことで、税務上の複雑な問題に適切に対処できるでしょう。
月次試算表の使い方とは?税理士から貰える試算表の使い方を解説税理士の変更にはメリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在します。
ここでは、「引き継ぎにかかる手間」や「事務作業の増加」など、主要なデメリットについて解説します。
新しい税理士へ移行すると、過去の記録やデータの引き継ぎが必要です。これには時間と手間がかかるため、一時的に大きな負担となる可能性があります。
特に、長年同じ税理士に依頼していた場合は、過去のデータや履歴が大量に保管されています。さらに、電子データに加え、紙ベースのデータも存在するなどの状況も考えられます。
そのため、データの整理に多くの時間と手間がかかることを、想定しておくことが望ましいでしょう。
税理士を変更する際には、新旧の税理士間で多くの情報共有や調整が必要となります。特に、複雑な取引をおこなう法人の場合、情報の共有に時間がかかることもあるでしょう。
そのため、引き継ぎ期間を長めに確保したり、日常的に書類の整理をおこなったりしておくことで、こうしたデメリットを最小限に抑える必要があります。
また、少しでも引き継ぎの負担を軽減する対策として、自社で会計業務のノウハウを蓄積しておくことも大切です。
全ての業務を税理士に丸投げをしていると、自社が把握しきれないことも増えてくるため、その分引き継ぎ時の負担も大きくなります。
このように、会計業務について把握をしておくことで、税理士を変更する際によりスムーズに手続きをすすめることが可能です。
税理士を変更する場合は、適切な手順を踏むことが重要です。
ここでは、変更するきっかけから具体的な手順まで、スムーズな移行を実現するためのステップについて詳しく解説します。
ここでは、税理士を変更する主なケースについて「3つ」紹介します。
現在の税理士に対して「報酬が高すぎる」「報酬に見合った仕事をしてくれない」と感じる場合は、新しい税理士を探すきっかけとなるでしょう。
特に、契約書をしっかり確認していなかったり、業務の対価が具体的に示されていなかったりすると、会社と税理士との間に認識のズレが生じる可能性があります。
税理士の変更は、会社と税理士の双方にとって負担が大きいため、このような認識の違いが生じないようにあらかじめ注意することも大切です。
また、経営状況の悪化により、現在の税理士への報酬が高すぎて払えないといった事態も考えられるでしょう。
「相談をしても的確な答えが返ってこない」「顧客対応に疑問を感じる」など、税理士との信頼関係が築けない場合は、契約を継続することが難しいでしょう。
税理士との信頼関係は、会社の成長や存続に大きく関わります。そのため、このような場合は、契約の見直しや税理士の変更を早急に検討するのがよいでしょう。
会社の方針が変わり、現在の税理士の専門知識や経験がビジネスのニーズに合わなくなった場合も、税理士を変更するきっかけになります。
具体的には、以下のようなケースがあります。
会社の経営方針や組織編成が大きく変わると、これまでのやり方では業務の遂行がスムーズにいかないことがあります。このため、上記のようなケースでは税理士の変更を検討することが多いでしょう。
建設業に強い税理士の選び方。建設業許可を取ってくれれば良いの?ここでは、税理士を変更する際の具体的な手順について解説します。
税理士を変更する前に、まずは現在の契約内容を確認し、契約解除の条件や手続きについて把握することが重要です。
通常、契約期間については「事業年度の開始から決算まで」など具体的に定められているため、まずはここから確認をおこないましょう。また、「自動的に更新がおこなわれるか」等についても確認することが大切です。
一般的に、税理士との契約は「委任契約」となります。委任契約は、お互いの信頼関係を基に成り立っており、いつでも双方から契約解除が可能です。
もちろん、円満に手続きをおこなうためには、期間満了時に税理士の変更をおこなうのが望ましいですが、やむを得ない事情等により、期間途中での解除も可能であることを押さえておくとよいでしょう。
また、通常は、解除の通知を事前におこなう必要があり、契約書には「契約を解除する場合には、3か月前までに告知する」などと記載されているため、あらかじめ確認をする必要があります。
さらに、途中で契約を解約する場合は、違約金などのペナルティが定められていることもあるため、これらについても正確に把握しておきましょう。
スムーズに税理士の変更をおこなうには、現在の税理士との契約解除を検討すると同時に、新しい税理士を探し始めることが望ましいでしょう。
税理士が見つからず、税理士がいない期間ができてしまうと、会社の経営に大きな影響を与えかねません。
前述のとおり、会計業界には繁忙期があることから、時期によっては新しい税理士を選ぶのに時間がかかることがあります。そのため、早めに調査や準備を開始することが大切です。
また、契約したい税理士が見つかったとしても、希望するタイミングで契約できるとは限りません。
このような場合には、少し大胆な方法ではありますが、決算期を変更することも1つの策として考えられます。
多くの税理士にとって、5月は繁忙期となります。それは、3月決算の会社が多く、通常、それらの申告期限は5月であるためです。
そのため、新規で3月決算の会社と契約できない税理士も存在するでしょう。このような場合は、決算期を他の月に変更すると契約できる場合もあります。
ただし、こういったケースでは、1度は決算期間が短くなります。1年以内の期間で申告をする必要がありますので、注意が必要です。
次に、現在の税理士に契約解除の意向を伝え、必要な手続きを進めます。このとき、円滑な引き継ぎをおこなうためにも、丁寧なコミュニケーションをとることが大切です。
たとえ不満を持っていたとしても、相手に不快感を与えないように対応する方がよいでしょう。
契約解除の理由を明確に伝え、可能な限り感謝の意を表すことで、手続きをよりスムーズにすすめることが可能です。
預けている書類の回収
契約解除についての連絡が完了したら、現在の税理士に預けている書類やデータを回収します。これには、過去の申告書類や決算書などがあり、具体的には以下のようなものが該当します。
決算書等の書類 |
●決算書 ●法人税の確定申告書 ●都道府県民税の申告書 ●市町村税の申告書 ●消費税の申告書 ●償却資産税の申告書 ●年末調整の関係書類 など |
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届出書・申請書関係の書類 |
●法人設立届 ●青色申告の承認申請書 ●消費税に関する各種届出書 ●給与支払事務所等の開設届出書 ●源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 など |
会計書類 |
●請求書・領収書などの証票類 ●総勘定元帳 ●試算表 など |
その他書類 |
●登記事項証明書(履歴事項全部証明書・登記簿謄本など) ●定款(原始定款・変更がある場合は変更登記申請書など) |
これらの書類は、多くの個人情報や機密事項が含まれているため、確実に回収するようにしましょう。
会社の税務状況等を正確に把握してもらうため、新しい税理士に必要な情報や前述した書類を引き継ぎます。
現在の資料だけでなく過去の書類等も引き継ぐことで、万が一税務調査などが入った場合にも比較的スムーズに対応してもらうことができます。
前述したとおり、税理士の変更には数か月かかると想定して準備をおこなうことが必要です。できるだけスムーズに手続きをすすめられるよう、普段から書類の管理などを徹底しておくことが大切でしょう。
この記事では、税理士を変更するベストなタイミングやメリットとデメリット、さらには具体的な手順について詳しく解説しました。
税理士の変更は、適切なタイミングと準備があれば、決して難しくはありません。
ポイントは、適切なタイミングの把握と、書類のスムーズな引き継ぎです。これらを確実におこなうことで、円滑な税理士の変更が可能となります。
税理士の変更を検討している方は、ぜひこの記事を参考にしていただき、最適な税理士の選定にご活用ください。
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このコラムの著者 : 曽根 詩央里
1990年岐阜生まれのB型。 中京大学・大学院に在学中、大原専門学校に通い税理士講座を受講。 大学院卒業後、SMC税理士法人に入社。 実務経験を積み、2017年税理士登録。現在税務の他、先行経営(MAS監査)を通じてお客様の経営支援を行っている。